テクノロジーが、世の中を、常識を変えてきた。 未踏へ挑むリスクに共に挑戦したい

2019.11.16

2015年にEast Venturesに⼊社し、現在はジラフとAppBrewの社外取締役務める傍ら、popshoot、PATRAの監査役などを歴任する⾦⼦剛⼠さん。投資をする上で重視していることから、さまざまな企業から役職を任される裏に隠された投資家としてのスタンスまで、金子さんの素顔に迫った。

起業家の長所を見抜き投資を決定

金子さんの投資の方針を教えてください。

我々の投資の特徴として、その多くが創業登記直後の非常に若いステージの会社、ということがあげられると思います。その意味で、投資の方針としては「時間軸のリスクを取ること」と言えるかもしれません。

創業直後のタイミングは、ピッチ資料くらいしかなく、仮説検証も済んでいないという会社が多いです。そのため、そういった会社にまずは仮説検証の費用を提供するような感覚を持っています。

シードで出資をすると、「セイムボート」と表現したりもしますが、早期の段階から起業家と同じ船の乗組員になります。つまり、出資させていただいた時点以降の、長きにわたる挑戦の旅路において、起業家と僕らシードVCの利害は一致しているのです。「同じ船に乗って、同じ方向を向いて、リスクを取って進んでいく」、この起業家とシードVCの関係性というのが好きでこの仕事をしています。

どのような視点で、投資先を決めているのでしょうか。

起業家の方の長所に注目するようにしています。人によって能力には凸凹があるものなので、ネガティブな面にフォーカスするのではなく、その方の持つ秀でた部分を尊重するようにしています。また、出資を検討するにあたって、その起業家の方が本当は何をしたいと思っているかを問います。

起業のきっかけは、社会的なペインを解決したいでも、お金が欲しいでも、モテたいでも個人的には特にこだわりません。ただ、目的に対して手段である山の登り方を間違えていたり、遠回りしていたりすると不幸になってしまうので、そのアプローチを確認したいのです。

一般的に、大成功した起業家やプロダクトに対して、再現性のある成功の方程式を抽出したがる傾向があります。一方で、「大」成功している人はそもそもそう多くありませんし、過去大成功を納めた起業家とは時代背景や環境も大きく変動しています。少ないサンプルから無理に共通項を探しても、ワークする可能性は低いのではという仮説を持っています。

過去に誰かが登った山や道でなく未踏の地を攻め、大胆なリスクを取る方が大成功する可能性が高いのかなと思っています。

また、事業によっても人によっても正しい山の登り方は違います。その再現性の無さをリスクとして受け入れて、信じて出資させていただくというのが僕のスタンスですね。

VCは社会的意義のある仕事

なぜVCという仕事を選んだのでしょうか

僕は、テクノロジーの進化こそが人類の幸福を作ってきていると思っています。

イメージしやすい例をいうと、100年前の大富豪と今の僕だったら、持っている資産は相対的にみてずっと少ないにも関わらず、今の僕の方が幸せだと思うんです。なぜかというと、今の僕はクーラーが効いた部屋でコーラを飲みながらYouTubeをゆっくり見れますが、100年前の大富豪にはそれができません。

そういった意味では、幸福の絶対値が100年前より今の方がずっと高くなっていると思うんです。そして、それを実現しているのが、テクノロジーの進化です。100年後はもっと発展していると思うので、100年後の人類が羨ましいくらいです。

人を幸せにするようなテクノロジーの進化に対して、我々が時間軸のリスクをとって投資していく。そんなふうに、新しいテクノロジーを生み出すお手伝いをしていくことがVCの仕事だと思っていて、そこに意義を感じています。ファイナンスとテクノロジーの力を使って、社会全体を押し上げることに興味があるんです。

VCという職業と出会ったきっかけを教えてください。

学生時代にSkyland Venturesでインターンをしていたことがきっかけです。代表の木下慶彦さんが独立されたばかりの頃です。

学生時代に趣味でNAVERまとめのまとめ記事を書いており、とあるアプリを取り上げたことがきっかけで、そのアプリ開発者の方と連絡を取るようになりました。その方から、「イベントを開催するから手伝ってよ」と声をかけられて、イベントのスタッフとして参加した際に、木下さんと知り合いました。そのイベントがアプリ開発者の方と木下さんとの共催イベントだったんですね。この出会いがきっかけで、Skyland Venturesでインターンをすることになりました。木下さんは、自分をこの業界に引き入れてくれた恩人の一人です。

また、ありがたいことに僕らは、様々なデバイスチェンジのタイミングに立ち会えた世代です。

小学生の頃から、自宅のデスクトップPCでインターネットには慣れ親しんでいました。小学5年生の時には、祖母にボーダフォンのガラケーを買ってもらいました。パケット放題でないのに、使いすぎて高額な請求がきてしまったことを思い出します。

デスクトップに始まり、ノートPC、ガラケー、スマホと変遷を経て多感な時期を過ごしてきました。AndroidやiPhoneがまだスムーズに動かない時から、アプリにも触れることができました。

デバイスチェンジが起きるタイミングは、新興企業によるビジネスチャンスでもあります。様々な企業の栄枯盛衰を目の当たりにしました。

この10年間で、スマホ回線の速度は4Gまで進化し、随分快適になりました。これは、リスクを取って早期にテクノロジーにベットした起業家がいて、それを後方支援する投資家がいたということに他なりません。僕も、そういったエコシステムに貢献できるようになりたいという想いはSkylandでインターンする以前から持っていました。

コミュニティがビジネスを成功へと導く

投資先と出会うきっかけを教えてください。

出資させていただいている起業家からの紹介が多いですね。過去に出資させていただいており、EXITした起業家の方が投資先にエンジェルやメンターで入っていてご紹介いただくこともあります。他には、Twitter経由でご連絡をいただくことも多いですね。

East Venturesは、渋谷2拠点、六本木、本郷の4拠点にオフィススペースを持っていて、一部を出資させていただいている企業にお貸ししています。現在お貸ししているオフィススペースには、40社前後の投資先が入居しています。シードのフェーズにある企業は与信の問題でオフィスを借りられない場合も多いですし、シェアオフィスであれば気軽に席数を増減させられるところもメリットです。急成長する会社には、なるべくオフィス移転にリソースを使って欲しくないですしね。企業の成長に合わせた、活用の仕方をサポートしています。

また、シェアオフィスを中心に、East Venturesの周辺コミュニティを整備した上で、投資先同士が相互に刺激し合ったり、情報交換をしたりすることで、後天的にビジネスの成功率をあげることができるのではないかという仮説を立てて、検証しています。実際に渋谷の拠点では、アプリのマーケティングがすごく上手くいった会社の事例を他のスタートアップにシェアして次々とうまくいったということがありました。

そういった相互作用もあってか、現状弊社の運営するオフィススペースに過去入居していた企業群の成長度合いは非常に高いです。

他にも、投資先が一堂に会するイベントや講師を招いた勉強会など、コミュニティ作りを意識して活動しています。

VCだけでなくて、融資を行う銀行やテック系メディア、人材エージェント、弁護士など、スタートアップを取り巻くエコシステムを分厚くしていくことによって、指数関数的にいろんなリソースが集まってくるようになると思っています。

例えば、仮にシリーズA、B、CのVCが一斉に投資を控えたとしたら、我々も投資活動がしにくくなります。出資させていただいた企業の資金が続かないからです。それぞれのプレイヤーに、一定のボリュームがある状態がいいですよね。次のラウンドで投資を行ったVCがメンターや社外取締役などになって会社を引っ張ってくれたら、より起業家はチャレンジすることができます。

East Venturesがいなかったら起業しなかったという会社を増やしたり、East VenturesがいるからこそシリーズA、B、Cの投資家がよりリスクを取ることができるようになったり、そう言ってもらえるような活動をしていきたいですね。

高い目標を掲げるとチャンスが転がり込む

2018年から社外取締役や監査役もされているそうですね。

ここ数年さまざまな会社と触れ合う機会をいただいて、ヒト・モノ・カネなどの経営リソースが多く集まる会社には、大きな目標を掲げ、その目標に向かって邁進し、その上で高い成長率を維持しているという共通点があることを学びました。

そう言った背景から、僕自身やEast Venturesという組織自体が大きな目標に向かい走り続け、高い成長率を実現していくべきだと思うようになりました。そうすることで、様々なリソースや機会が集まり、投資先により良い支援ができると考えています。

そこで、特にこの数年は、自分個人に対し「グローバルに通用する投資家となる」という目標を課し、高い成長率を維持することを意識して活動をしてきました。

一方で、シードVCやキャピタリスト自身の成長率を短期で測定することは非常に難しい。キャピタルゲインが出るのも基本的には数年後ですし、もっというとファンドの満期を迎え、最終的な結果が分かるのは10年後ですから、それまでは答えのないトンネルを暗中模索するしかありません。ある意味KPIがないといえばない状態で、どうしても定性的になってしまうんです。なので周囲からのフィードバックをもらいながら、細かくPDCAを回し、現状把握を怠らないようにしています。

こうした姿勢で臨んでいると、驚くほどおもしろいお話やチャンスをいただけるようになりました。

社外取締役のお話もそうですね。我々はシードの時点から出資させていただいているので、長きにわたり同じ船の乗組員としてサポートをする中で、そのまま取締役や監査役などのポジションを依頼されることがあります。いい時も悪い時も多くの時間をともにしていますので信頼関係を築くことができているのだと思います。

一般的には、起業家とVCの二元論で語られることが多いですよね。でも、僕としては、VCという事業モデルで起業をして、経営をしている感覚を持っています。投資先に求めるような成長の水準を、自分達も達成していかなければいけないと思っています。これが、僕自身の「グローバルに通用する投資家になる」ための必須の条件でもあると思います。

数千億、数兆円規模感を目指して日々努力されている投資先の皆さんから刺激をいただき、自身の成長の糧としています。

最後にひとことメッセージをお願いします。

日本の未来に対して悲観的な見方をする方が多いですよね。人口は減少していき、GDP成長率は下がっていく。

しかし、普段シードVCとして多くの起業家にお会いさせていただいている僕としては、その点において実はかなり楽観的です。僕の身近には、優秀な若者が起業して、新しい産業を作り、テクノロジーの力で世の中を変えようとする動きがたくさんあります。しかもそういった挑戦が過去と比較して相当増えている実感があります。

野心を持った優秀な人たちがリスクを取ってチャレンジしている姿を目の当たりにすると、日本の未来は明るいのではないかと希望を抱いています。

様々なマクロの指標を見ると悲観的になるかもしれませんが、シードVCというミクロの世界ではまだまだ明るい未来が見えていますし、そう言った場面に歴史の証人として立会い、微力かもしれませんがサポートできる立場にいる自分は幸せだなと思っています。