法律がわかる投資家か? 投資がわかる弁護士か? 異色の経歴を歩んできた寺東さんの素顔

2020.04.08

さまざまな業界を経験したのちに、投資の道へ進んだ寺東宏城さん。2018年セレスに入社後は主にフィンテック企業に向けて投資を行っている。弁護士資格も保有し、法務半分・投資半分のユニークなキャリアを築いている寺東さんに話を聞いた。

尖った起業家の虜になる

−寺東さんはいつから投資家をなさっているのでしょうか。

2016年から投資をしています。2010年から2018年まで野村證券にいたのですが、2016年までは弁護士として法務の仕事をしていました。次長という肩書きで、40人ほどのメンバーのマネジメントをしていたのですが少し疲れていました。

2015年の秋くらいになると、フィンテックや仮想通貨が盛り上がってきました。フィンテックまわりは、銀行法、資金決済法、金商法など法律がややこしいしうえにテクノロジーの知識も必要。「これは面白そうだな。若手でもベテランでもない中堅弁護士だからこそ、次はこの領域にチャレンジしたい」と思い、勉強を始めました。

ちょうどその頃、野村ホールディングスの中でイノベーションを起こすために様々な施策に取り組む「⾦融イノベーション推進⽀援室」を作ることになったので、これ幸いと社内公募に応募して異動しました。当時6名でスタートした組織ですが、今では50名ほどになっているそうです。その部署では、他の金融機関のイノベーション部署やベンチャー企業経営者など色々な方に話を聞きに行き知見を広げ、部署の皆でアクセラレータープログラムを立ち上げました。さらに、社内ビジネスコンテストを開催したり、投資ビークルを作ったりしました。そのあたりからベンチャー投資に関わるようになりました。

それまでの仕事では起業家に会う機会がほとんどなかったので、投資業務をしたいと思ったことはありませんでした。大企業の法務部門は、たいてい社内の人としか会いません。異動して初めて、尖った方やずば抜けて優秀な方に会う機会が増え、ベンチャーや投資の世界は「なんて面白いんだ」と感動したのです。

僕は、もともと人と会うのが好きで、人に対する興味が尽きないタイプなので、この仕事は天職ではないかと思うくらい今は楽しいです。むしろ契約書を細かくチェックするのがしんどいくらいです(笑)

そんな中、今のセレスの社長である都木と話す機会があり、セレスに誘ってもらいました。「確かに会社の規模は小さくなるけれど、もっと主体的に動けて面白いことができそうだな」と思い、都木とも意気投合し、2年前に転職しました。

「同じ業界は選ばない」変わったキャリア

−これまでのご経験と苦労したことがあれば教えてください。

大学時代に目指していたのはキャリア官僚でした。当時は「日本のために何かをするのがカッコいい」と思っていたのです。公務員試験の予備校の模擬試験でも合格ラインでしたし、実際に試験も受け、官庁訪問までしました。官庁訪問は試験の翌日から開催されます。関西の人は、試験結果を待ってから官庁訪問に向かうのですが、「出遅れてはいけない」と思って、試験を受けたその足で夜行バスに乗って東京に行き、官庁訪問をしました。

しかし、念のために自己採点をしてみたら、なんと不合格だったのです。試験に不合格だったのは、人生で初めての経験でしたので、とてもショックを受けました。もう1年間勉強しようと思い、その後もほとんど就活はしませんでした。

しかし、その後大きく方向転換をすることになります。現在東証一部に上場しているエレコム株式会社に入社することになったのです。当時エレコムは未上場で、上場を目指して法務機能を立ち上げるというタイミングでした。後でわかったことでしたが、この会社では司法試験や公務員試験に落ちた人に電話で採用マーケティングをしていたようです。「法務部員を募集しています。小さい会社ですが好きなことができるので話を聞いてみませんか?」と言われ、足を運んでみたら面白そうだったので入社を決めました。そこでは、1年半働きました。

次に、不動産業の⽇本エスリード株式会社に入社しました。こちらも今は東証1部に上場しているのですが、当時は未上場の100人くらいの会社でした。

法務担当として入社したのですが、総務、人事、労務、上場準備などすべて兼務して、バックオフィス用に10台ほどあったパソコンのLANを繋ぐなんてこともしていましたね。

2000年のミレニアムが近づいた頃に、社長から「2000年問題って知っているか? うちのシステムは大丈夫か?」と聞かれました。「うちのシステムですか? うちにはパソコンしかないですが…」と答えたのですが、「うちのパソコンが2000年問題で全部使えなくなったら困るから、2000年に年が変わったらすぐにパソコンが起動するか確認しろ」と言われました。仕方がないので、世間はミレニアムで盛り上がっている1999年12月31日の夕方からスーツを着て一人で会社に行きました。しかも、会社の入っているビルが年越しの前後30分ずつ停電したんですよ。2000年問題対応ということでした。暗闇でミレニアムを迎えて、停電が終わってから、パソコンがつくかをチェックしたことは今でも忘れられません。

また、営業がお客様と契約を結ぶ時には、法律上必ず重要事項について説明しなくてはなりません。重要事項の説明をするには宅建の資格が必要なのですが、営業は宅建資格を持っていない人がほとんどだったので、資格を持っている総務や経理の人が借り出されていました。僕もなぜか宅建資格を持っていたので、営業がアポを取ると全国どこへでもついていき、交渉中は近くの喫茶店で何時間も待機していました。契約に至らない時は何もしないまま帰社するということもありました。

その後、次の仕事が決まらないまま⽇本エスリードを退職して東京に引っ越しました。当時の彼女で今の奥さんが3年遅れで社会人になり、関東で就職をしたのです。「遠距離になってしまうと二人の関係がヤバい」と思って転職活動をし、東京に本社機能があるオリックス株式会社に入社しました。

入社してみると、法務部門のレベルがあまりに高くて衝撃を受けました。入社して1週間くらいで本当に辞めたくなったのですが踏ん張りました。オリックスには8年間ほどいて、最後の3年間はロースクールに通いながら弁護士資格を取得しました。その後、1年間司法修習に行って、法律事務所で弁護士として勤務し、野村證券に入社したという経歴です。

−弁護士資格だけでなく、宅建の資格もお持ちなのですね。

大学卒業後すぐに取得しました。これは自慢なのですが(笑)、社会人1年目の10〜11月のわすか1ヶ月の間で、行政書士と宅建と簿記2級に合格したんです。

−かなり変わったご経歴ですが、新しいことにチャレンジする際のポリシーはありますか

1つ目は、色々経験はしていますが軸は法務に置いていることです。現在も半分は投資の業務をしていますが、あとの半分は法務の仕事をしています。

2つ目は、ポリシーというほどではないですが、就職先の業界では、同じ業界は選ばないことです。僕はチャレンジをしたいので、あえて違う業界を選ぶようにしています。その経験のおかげで、見たことのないスキームや契約書はあまりありません。でも、多様な経験を積みすぎて、この先は選択肢がなくなってしまいそうです(笑) 

長期的な目線でフィンテック企業へ投資

−現在の投資先は主にフィンテック企業ですよね。

はい、セレスの方針ですね。

2015年から2018年までは、仮想通貨とブロックチェーンに力を入れていました。2015年の時点で、ビットバンクとコインチェックに投資しています。コインチェックの当時社長の和田さんが「仮想通貨取引所をやりたい」と言ったタイミングから投資をしているそうです。

僕がセレスに入社してからは、1年ほど前に交換業登録業者のXthetaさんに投資しました。Xthetaさんは、僕が野村證券にいた頃からお世話になっている方から紹介していただきました。

−ブロックチェーンがわかる投資家はそう多くはないですよね。

フィンテック、とりわけ仮想通貨、ブロックチェーンに対して、特にシードラウンドは投資家の目が厳しくて、投資する投資家が少ないですね。やはり仮想通貨は怪しいし、いつ芽が出るかわからないという印象があるのだと思います。

しかし、逆に我々はそれがチャンスだと思っています。あと、我々がそういったスタートアップを支援していかないと業界が盛り上がっていかないですよね。そういう意味で使命感を持っています。

セレスの特徴は、ファンドでお金を募っているわけではなく、自分たちが稼いだキャッシュフローの中で投資をしていることです。だから、ファンドの満期みたいなものがないので、すごく長い目で投資ができます。実際に投資先に「5年くらいは、売上ゼロでもよいよ」と言っています。そういう視点で投資しているところはあまりないかもしれませんね。

−投資を決めるときのポイントはありますか。

「人」です。僕の好き嫌いは関係なくて、根性があってやり切ることができるかどうかを見極めます。原体験から強い思いがある方はもちろんですが、そういった経験がなかったとしても「絶対に金持ちになってやる」というような熱い想いがある方でもいいんです。

ベンチャーは、基本的に計画通りにいかないことばかりです。そんなときに、心が折れてしまう人、色々なことに手を出してごまかす人など多様な方がいます。思いのある人は逃げずに集中し、本当にダメならピボットします。

例えば、あるベンチャー経営者の方は、「うちに出資する株主はラッキーだ」と心の底から思ったりしています。それくらいのマインドで良いんだと思っています。

法律がわかる投資家か? 投資がわかる弁護士か。

−印象に残っている投資先について教えてください。

AI×トークンエコノミーを用いた新しいグルメSNSの「SynchroLife(シンクロライフ)」を提供しているGINKANさんにかなり早い段階で投資をしました。

良い口コミを投稿した人にはコインが配布されます。そのコインはお店でも使うことができるし、売買もできる仮想通貨です。このビジネスは、三菱UFJグループや電通のアクセラレータプログラムでも採択され、FIBCでも賞を受賞しています。

代表の神谷さんは変人ですね。そして夢想家で自分の行動や思いを信じきっています。いつも理想を語るので、お酒を飲むと面倒臭いこともありますが(笑)、丁寧で嫌味がなくて、年上の方から応援されるタイプの方です。

色々なところから投資を受けているのですが、僕らはシードステージから投資しています。

GINKANさんは、香港法人でICO(企業が仮想通貨を発行し、それを購入してもらうことで資金調達を行う方法)を実施していました。一般的には、ICOを実施している会社には投資しにくいですよね。ビジネスがうまくいくとトークンの価格が上がりますが、会社のバリュエーションが高まらなければ、投資家にはメリットがないからです。

そこで、セレスで投資する際に、セレスの社長の都木と色々議論して、おそらく当時日本で初めてだと思いますが「トークン転換権」を付与した形での株式を作りました。トークン転換権は、一定の事由が生じた時に株式をトークンに転換できる権利で、トークンを売却すれば資金の回収ができるのです。

あと、フィンテックのアイ・ティ・リアライズさんという会社には社外取締役として入っています。フィンテック業界が中心となって作られた枠組みである「電子決済等代行業者」に5番目に登録している会社です。要は規制業種なので、弁護士として取締役に入ることで少しでも信用補完になればいいかなと思っています。

投資先へは、基本的にはハンズオンで法律的なところを積極的にサポートしています。

−セレスでは、どれくらいの頻度で投資をしているのでしょうか。

平均すると月に1件くらいです。僕は半分は法務の仕事をしていますし、投資の専任者は1人しかいません。投資数は多くないと思いますが、ハンズオンなのでそれでも大変です。

だからずっと人材募集はしています。一緒に働くならば、コミュニケーション能力が高い人がいいです。この仕事は、法律、会計、事業計画などの知識が求められる総合格闘技のようなものですが、知識は後からでも身につけることができますから、やはり一番重要なのは人付き合いだと思います。飲み会に顔を出して、自分の名前を売れるようなコミュニケーション力があると強いですね。20代でも自由に働ける環境だと思います。

−寺東さんご自身は今後どうなっていきたいですか。

僕には大きなビジョンがあるわけではなく、その場その場で関心のおもむくままにやっていきたいタイプです。今も副業として弁護士事務所に所属し、いくつかベンチャー企業の顧問もしているんです。

今後、法律がわかる投資家としてやっていくのか、投資がわかる弁護士としてやっていくのかまだわからないですね。

−最後に起業家へのメッセージがあればお願いします。

重ねてきたキャリアでも、これからしたいことでも何でもいいのですが、独自性がある方や尖っている方にお会いしていきたいです。