起業家“ならでは”の視点が、未来の「必然」を創る 湧き出る熱量に投資をする投資家
大学院在学中にCAキャピタルの仕事に惚れ込み、新卒で入社したサイバーエージェントで念願の配属を掴み取った永原健太郎さん。その後、DBJキャピタルを経て2019年にデライト・ベンチャーズ立ち上げに関わり、多様な業界へと投資を行っている。この仕事に込めた熱い思いとは。
目次
社会に価値を提供できるかを投資基準に
−永原さんはデライト・ベンチャーズの立ち上げ期から関わっているのでしょうか?
そうですね。ファンド組成の動きは2018年の夏頃にDeNA の創業20周年企画の一貫で出てきたようです。僕自身はファンド組成が具体化してくる中で、タイミングよくかなり初期から参画することができました。聞いた話ではありますが、社員から「DeNA社員や元社員の起業を応援するファンドを作ってほしい」というリクエストがあったのがきっかけの一つのようです。
※DeNAは今までもベンチャー投資は行っていましたが、今後は全てデライト・ベンチャーズにて行う方針。
南場が「チームメンバーを集める」と本腰を入れたのが2019年のはじめです。知り合いの方経由でお声がけいただき南場からファンドの構想を聞いたのですが、新しい挑戦で非常にワクワクしたのを覚えています。それと同時に是非一緒にやりたいと思いました。そして縁あってお声がけ頂き、2019年6月に入社しました。具体的にどう進めていくかというところから関わり、今に至ります。
DeNA卒業生の起業家の方は多いのですが、今までは中々繋がりを持つことができませんでした。しかしファンドを作れば、独立した社員とも有機的に繋がることができ、DeNA思想を持つ起業家ネットワークを構築することができます。
DeNAでは、独立起業もキャリアパスの一つであるとはっきり社内で明言しており、ここまで創業者(南場)が発信する会社も珍しいのではないかと思っています。
−デライト・ベンチャーズの投資の方針を教えてください。
投資検討はマネージングパートナーである南場智子と渡辺大、あと永原の3名で毎週投資検討会を開催しており、議論をしています。そこでよく議論するポイントは2点あります。
1つ目は、デライトという名前をつけているように、その会社が提供しているサービスがビッグデライトかどうかです。その商品やサービスがあることで、世の中にどれだけの喜びや価値を提供できそうか、という視点で議論をしています。利用するユーザーに本当に指示されるものなのか?儲けに走る事業ではないか?という観点で見ています。個人的には、創業者の思い、何故この事業をしているのかという点を汲み取るようにしていますね。
2つ目は、グローバルで挑戦できる可能性があるかどうかです。グローバルというのは、必ずしも絶対条件ではありませんが、DeNAも海外展開には色々と苦労をした過去があるので、本気で海外展開をしたいのであればシリーズAやシリーズBといった段階から、グローバルに順応したチームを作り、サービス展開していかないと競争に勝てないと思っているので、経営者の方がどのようなビジョンを描いているのか、そしてデライト・ベンチャーズとしてどのような支援をしていけそうか、という観点で見ています。そうはいっても、全てが当てはまる訳ではないので投資をする時点では「グローバルでも挑戦できそうだよね」と思えるくらいでOKです。
−業界は絞っているのでしょうか。
基本的にはオープンです。DeNAと競合するサービスでも投資検討は可能です。一部例外的に除いている分野はありますが、その場合は面談前にお断りさせて頂くようにしています。
またDeNA出身者以外の会社にも投資はしています。リリース時、「DeNAOBに対しての投資を積極的にする」というような記事も出たのでDeNA出身者以外の企業への投資はやっていないと思われていますが決してそんなことはありません。
投資ポートフォリオとして11社現在ありますが、うち5社がDeNA縁の会社で残り6社は全く関係ありません。
惚れ込んだCAキャピタルの仕事
−永原さんはいつからVCの仕事をされているのですか?
2007年4月に新卒でサイバーエージェントに入社し、2009年2月までキャピタル部門に在籍していました。2008年にリーマンショックがあり、IPOも冷え込んでいた時期ですね。当時のCAキャピタル(今のサイバーエージェント・キャピタルの前身)は、株価予想サービス、FX、VC投資の3つの事業がありました。僕以外は中途入社の方や複数事業部を経験された方が多く、キャピタル部門の新卒採用の一人目でした。
大学院で金融工学を専攻していたのですが、ITにも興味があり金融×ITで何かないかなと探している時にCAキャピタルがヒットしたので、インフォメーションから「インターンをしたいです」と連絡をしたんです。
すると、今のSTRIVEの堤達生さんからお返事をもらい、1時間ほどお話しをさせていただきました。今も覚えているのは「大学院での勉強は今しかできないからしっかり学んだ方がいいよ」と言われたことです。
結局インターンはできませんでしたが、堤さんの不思議な魅力に惹かれて一緒に働きたいなと思い、サイバーエージェントの新卒採用に応募したんです。募集要項にCAキャピタルはなかったのですがエントリーをしました。最初のグループディスカッションから、「CAキャピタルにいきたい」と言い続けていたので、「変な奴がいる」と興味を持ってもらえたのかなと思います。
しかし、藤田さんの最終面接から1週間経っても合否の連絡がありませんでした。是が非でも行きたくて我慢できず、当時の人事の方に電話をして「選考どうなっていますか?」と確認したくらいです。そしたら「CAキャピタルに配属されるかわからないけど、それでもいいなら内定を出すよ」と言われたので、「それでも絶対に行きたいので内定を下さい」と答えて内定をもらいました。その後も配属発表までは「枠があるかどうかはわからないよ」と言われていたのですが、無事にCAキャピタルに配属されました。
−学生の時からVCに関心を持っていたのですね。
はい。どの記事だったか記憶が定かではないのですが、日経新聞に米国でVCの仕事をしている方の記事を読んだことがきっかけです。「お金を使って新しいサービスを生み出すために支援をする仕事があるのか」と興味を持ちました。そこから本を読んだり、インターネットで調べたりしました。
1年目の時に出会ったのが、現ANRIの佐俣アンリさんやJAFCOの井坂省三さん、吉田淳也さんですね。当時は業界で40名ほど新卒でVCに行く人がいたと思います。
苦しかったSEO営業時代
−これまで一番辛かった経験があれば教えてください。
めちゃくちゃ辛い経験ばかりです。常に何かしら壁にぶつかってもがきながら進んできたように思います。
まあ中でも辛かったと言えば、2009年にSEO事業に特化した子会社に異動し、営業となった時です。当時はSEOも外部リンク全盛期で、いかに効果の上がるリンクを提案し貼っていくか、という勝負のようなところもありました。
提案をしなければ始まらないので、コアタイムは提案営業ができるように業務外でリストを作って担当者が席にいそうなタイミングでアポ電をし、またリストを作ってかけて提案をしての繰り返しで、営業のかっても全く分からなかったので始発で出社して終電で帰るという日々。身長190cmあるのに体重が60kgを切りそうなくらいまで異動後3ヶ月で一気に痩せてしまいました。「VCがやりたくてこの会社に入ったのに」と嘆いていましたね。
なんとかやってはいたものの一度は辞めようと思って転職活動もしたのですが、時を同じくして「SEOのコンサルをやらないか」と言われ、異動してみたら意外とはまったんです。コンサルはコミュニケーションを軸にした仕事なので、自分には結構合っていたのだと思います。クライアントに一度信頼してもらえると、その後はスムーズに業務を行うことができました。
結局5年半ほどSEOに関わることになったんですけど、この先もずっとSEOをやっていこうとは思えなくて。SEOに携わるならなんとなく昔から、ルールを作っている側のGoogleに入ってやりたいと思っていたのもあります。
その後、せっかくサイバーエージェントにいるならメディア事業にも関わっておいた方がいいんじゃないかと思って、当時の役員にお願いをして、アメーバの部門に異動させてもらいました。その時のマーケティングの経験は、今も活きていますね。
今も苦労は尽きませんが、年を追うごとにビジネスが楽しくなってきていると感じているので、それは幸せですよね。
家族ぐるみの付き合いができる関係性は一つの理想
−仕事をする上で、永原さんが大切にしていることを教えてください。
経営者の方との信頼関係をとても大切にしています。イメージしやすいようにいうと、家族ぐるみで付き合えるかどうかってことなんですけど、単純に仲がいいということではなくて、自分の家族に紹介してどういう人とどういう未来を作ろうとしているのか、自然と共有しあえる関係性というのはすごくいいなと思っています。
「面白そうだな」とか「儲かりそうだな」というものだけだと、相手とのコミュニケーションもどんどん薄っぺらくなり、表面的なアドバイスで終わってしまうことが多い印象です。
どんな些細なことでもいいんですけど、永原に相談してみようかな?と思ってもらえるように、自分なりのコミュニケーションの取り方を常に模索している所はあります。本当に困っているときは全力でサポートしたいと思っています。メッセンジャーでもやりとりしますし、直接会うことも、飲みに行くこともありますね。
−つまずく投資先の傾向はありますか?
シリーズA前後ですとチーム作りで崩壊するケースは多いですね。15人くらいまではなんとかなっていても20人を超えるとうまく対話ができなくなる、もしくは今まで隠れていたものが表面化してくるイメージです。
経営チームをうまく組成できずに、全ての権限が社長に偏っている会社もありますね。採用はどこの会社も苦労していると思うので、やはりトップがコミットしていくしかないですよね。デライト・ベンチャーズでも採用活動をしていますが、試行錯誤しながら進めています。
あとは、コンサルや外資出身の方も増えてきていますが、給与水準がなかなか合わないケースが多いのかなとも思います。直近はコロナの影響で市場がどうなるか不透明なので、より一層苦労することは増えると思います。デライト・ベンチャーズは、for Startupsの恒田さんにアドバイザーとして入っていただいているので、投資先の採用アドバイスなども手伝ってもらっています。
−印象に残っている投資先はありますか。また、投資先はどうやって見つけていますか。
オンラインで輸出入の発注・管理ができる「デジタルフォワーディング」事業を展開する株式会社Shippioは、前職のDBJキャピタルから投資していたのですが、直近のラウンドでデライト・ベンチャーズからも投資させて頂きました。
ShippioはB Dash Campのピッチで出会ったのですが、レガシーな産業に挑戦して、投資領域としてもいいなと思ったんです。その時はほとんど話せなかったんですけど、ちょうどサイバーエージェントの後輩が入社していたので連絡を取って繋いでもらい、話を聞かせてもらいました。
代表の佐藤孝徳さんは、自信家に見える反面、ナイーブな面もある経営者で、なんだかんだ良いお付き合いをさせて頂いています。共同創業者の土屋さんとも本当に信頼し合っていて、いい関係だなと思っています。
最近投資させて頂いた、Web面接サービス「HARUTAKA」を開発する株式会社ZENKIGENは、社長の野澤比日樹さんがサイバーエージェントの先輩で、新卒時代からの知り合いなのですが業務を一緒にすることはありませんでした。野澤さんもサイバーを離れ色々と挑戦されていたので長らく会ってなかったんですけど、DBJキャピタルにいる時に偶然半蔵門線の大手町駅のホームで見かけ声をかけたのをきっかけに改めてやり取りが再開し、そしてデライト・ベンチャーズに行ったことでDeNAのAI事業部との絡みなども期待され投資に繋がったのですが、偶然というか必然というか、不思議なご縁だなと思っています。
また今のファンドからは投資していませんが、個人的に今でも契約をしていて会社にも導入したグルテンフリーのお菓⼦を製造販売しているD2C事業社である株式会社スナックミーは、当時ベンチャーユナイテッドの丸山さんに紹介して頂きました。社長の服部さんは元DeNAで、デライト・ベンチャーズに行くことを電話で伝えた時は、「いい会社なので頑張って下さい」と言われ、株主として途中で離脱することの申し訳なさがあったのですが、なんだか不思議な感じになりました。
職業柄問題がありそうなんですけど、交流会のような見ず知らずの人が多く集まる場が正直苦手なので、知り合いに紹介してもらうことが多いです。いい面悪い面あると思うんですけど、本当に周りの人に助けられて生きてるなと思います。
VC業界、最初の入り口は2007年なんですけど2009年以降は、サイバーエージェントの事業部に異動したので、2017年にDBJキャピタルに転職するまでの約8年はVCの方々と関わることはほとんどありませんでした。ただ、その間に当時CAVに所属されていた方々は独立してパートナーになっている方も多く、すぐにコミュニティにも入れてもらえてありがたかったですね。先ほど話にあげたSTRIVEの堤達生さんもそうですが、XTechの西條晋一さん、ジェネシア・ベンチャーズの田島聡一さん、鈴木隆宏さん(新卒同期)、WiLの難波俊充さん、インキュベイトファンドの和田圭祐さん、iSGSの佐藤真希子さん、アプリコット・ベンチャーズの白川智樹さんなど。
今はファンドも立ち上げたばかりでドタバタしてしまっており、ご紹介いただいた会社さんだけで手いっぱいになっていますが、もう少しメンバーが増えたら、外にも出ていきたいなと思っています。
“ならでは”の視点でモノやサービスを生み出す
−好きな起業家のタイプを教えてください。
「その経営者だから、そのサービスが生み出す価値に気がつくことができた」というストーリーがあるといいですね。
好きな起業家は誰かと問われると、TwitterやSquareを創業したジャック・ドーシーと答えています。今となっては当たり前になってきていますが、2013年の新経済サミットにて話されていた逸話が忘れられません。彼が地方に行った時に、「小さな商店にはPOSレジがない。さらにPOSレジを導入するお金もない」という課題を汲み取り、中小・個人事業主向けキャッシュレス決済端末を世の中に普及させたという話です。
今でこそ必然のように思えますが、問題点に最初に気がついて、製品を作り、売り出し世に広めていくのはすごい力だと思います。日々意識をしていないと彼のように地方を歩いていても、POSレジの問題を解決するようなソリューションを思いつくことはできないでしょう。
起業家は、課題意識を持って行動をしているので事業の種を見つけ出せるんですよね。熱量は、その人が生きてきた背景や経験から湧き上がるものだと思います。
そういう意味では、「流行りだから起業しました」という方にはあまりピンとこないというか、「あなたじゃなくてもいいんじゃないですか?」と心の中で思ってしまいます。
− 最後に起業家の皆さんへのメッセージをお願いします。
飾らずに自然体でいらっしゃっていただけると嬉しいですね。プレゼン資料が下手でもいいし、手書きだっていいんです。背伸びをして語る方もいますが、綺麗事ではなくて本音の部分をどれだけお互いに話せるかが大事だと思います。そこがスタートですよね。
僕は、出資まで1年くらい時間がかかってもいいと思っています。シード期からお会いして、僕らが検討できるラウンドまでコミュニケーションを取り続けることで、信頼・信用が積み重なってご一緒するのもいいなと思っています。
目先のお金ではなく、中長期的に考えられる夢を持っている方とお会いしたいです。