新規事業ブートキャンプ(オカジマ編:イノベーションの現場で何が起きている?)

2020.01.15

大手メーカー退職後に創業したベンチャー「岩淵技術商事株式会社」にて様々な企業の新規事業に関わるほか、IoTスタートアップのためのシェアファクトリーである「DMM.make AKIBA」や筑波大学が様々な大学と共催する次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)の運営に携わる岡島 康憲 (おかじま やすのり)氏。

今回は、2019年11月に開催された、BAND of VENTURES主催イベント「新規事業ブートキャンプ(オカジマ編)」当日の内容をレポート記事にしました。新規事業の際の仮説検証から、スタートアップのチーム編成まで多様なテーマを 岡島康憲氏に語っていただきました。

キャリアのスタートは、「動画にまつわる色んな事業を作る人」

田原:本日は新規事業ブートキャンプ(オカジマ編)にお越しいただきありがとうございます。今回のイベントでは、岡島さんにご登壇頂き、新規事業をテーマにお話をしていただきます。それでは、まず最初に岡島さんの自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

岡島氏:はい。NECに新卒入社をして、サラリーマンとして仕事を始めたのが2005年になります。大学でソフトウェアやネットワークについて学んでいましたので、その流れでNECに入社しました。NECの中でもインターネットサービスプロバイダ部門であるビッグローブ(現在のビッグローブ株式会社)に配属され、当時まだ黎明期だった動画配信まつわる事業を担当しました。おかげさまで様々な大手企業の皆様と関わる経験を積むことができました。「動画にまつわる色んな事業を作る人」としてサラリーマン生活のスタートを切った形になります。

もう少しだけ具体的なお話をすると、私が動画配信事業に携わり始めた頃にyoutubeが出てきたこともあり、動画配信市場が広がってきました。事業に関わりながら、市場の変化を見るうちに、動画配信以外の様々な「モノ」にインターネットを繋いでいく仕組みが次の事業領域として面白そうだと思えたのです。プロバイダとしてビジネスを設計する上で、会員契約を増やすことが大切なので、接続アカウントを増やせるのであれば、トイレットペーパーにインターネットを繋いでも良いと思っていたくらいです。そんなこんなで、まだIoTという名前が知られていなかった頃から、物にインターネットをつなぐサービスにも興味がありました。

そういった感じでNECでは楽しく働いていたのですが、「僕はサラリーマンに向いていないな」というのがだんだんと判明し、2011年に自分で会社を作りました。2011年当時は、IoTの「あ」の字が出始めた頃。そして震災を機にスマートグリットが注目され始めた時期でした。設立した会社は、岩淵技術商事株式会社という主に研究者の方向けのIoTデバイスやモジュールの設計・製造・販売等をする会社です。

IoTやビズデブ、大手企業とのリレーションの作りがこれまでのキャリアを通じて得た経験、スキルだと考えています。一方で、スタートアップとのお付き合いと言う軸でこれまでを振り返ると、2011年頃からIoT事業に挑戦するスタートアップや大手中小企業が増え、そうした皆さんをお手伝いする依頼をいただくようになりました。その延長線上で、「IoTのスタートアップ向けにシェアオフィスを作りたいから手伝って欲しい」と相談があり2014年から参画したのが、DMM.comが運営するハードウェアスタートアップ向けのシェアファクトリー「DMM.make AKIBA」です。

そんな文脈で、引き続き様々な方からお仕事のお誘いをいただくようになりまして、2017年からは筑波大学が様々な大学と共催する次世代アントレプレナーの育成事業「Edge Next」にメンターとしても携わっています。

売上の源泉は人からの感謝

田原:自己紹介ありがとうございました。それでは、本編に入っていきましょう。イベントの後半では、質問コーナーを予定しております。皆さんが質問コーナーの際に質問をしやすいように、新規事業関連のトピックについてまずは岡島さんにフリートークをして頂きましょう。

岡島氏:それでは、まず僕の考えている「良い事業の条件」についてお話します。良い事業とは「顧客に喜んでもらえる事業」かつ、「継続性のある事業」だと考えています。というのも、売上の源泉は人からの感謝であると思います。このサービス良いな、便利だなと思うから、顧客はプロダクトやサービスに対して喜んでお金を払います。

ただ、どんなに喜んでもらえても売上を生み出し続けないと、そもそも事業を継続できないですよね。なので顧客が支払うお金を元手に継続的な成長が可能なことも、良い事業の条件ということになります。

田原:実際に良い事業を作るために、スタートアップはどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。

岡島氏:どんな企業にも共通すると思うのですが、最初にアイデアがあり、その次にコンセプトを設計して実現性の検証をします。それから、「じゃあこれをやるぞ」となれば、細かいディテールや仕様を決め、最終的にローンチをします。結局は、やることを決めてから一つ一つ取り組んでいくという一連の流れは変わらないのです。

ただ、取り組む際に注意が必要なのは、コンセプトや実現性の検証のプロセスです。事業立ち上げにおいて検証を行っているかを経営や現場に関わる皆さんに質問をすると、多くの方が「検証してます、売れます!」と仰るんですよね。でも、よくよく聞いてみると、実際は「技術的に実現可能かどうかを検証している」だけの場合も多い。そのアイデアが本当にユーザーに受け入れられるのかという点についての検証を行う方は少ない。これはもったいないと思います。技術的な部分だけではなくて、アイデアやコンセプトの検証にも取り組むべきでしょう。

「どういう顧客の、どのような課題を、どのように解決できるのか」を考え抜く

田原:ここまでのお話に関連して、新規事業に取り組むにあたり、具体的にはどのようなことを考えるべきなのでしょうか。

岡島氏:自分たちのプロダクトやサービスが「どういう顧客の、どのような課題を、どのように解決できるのか」を考え抜くことだと思います。顧客は課題解決ができるプロダクトやサービスに対してお金を払います。なので、具体的には「顧客」「課題」「解決策」の3つに視点で、商売として成立をさせるためにどういうステップが必要なのかを考えるのが良いでしょう。この一連のステップについては「起業の科学」というベストセラーに詳しく書かれています。ここに書かれている考え方が唯一の正解では無いと思いますが、スタートアップの方だけではなく、大企業の新規事業担当者が読んでも勉強になる一冊としてお勧めできます。この本を踏まえ、僕は良い事業を生み出すためのステップを4つに分けて考えています。

3、4の違いは重要です。僕が考えるポイントとしては、3の段階では、最初のターゲットユーザーに実際に売り込んでみて、そのうちの数人から入金をしてもらえればクリアだと思います。一方で4、つまり「プロダクトマーケットフィット(PMF)」に進むためには数人からの入金では不十分です。

狭い範囲の顧客だけではなく、顧客全体に受け入れられることで「プロダクトやサービス提供が間に合わない(=ひっぱりだこ)」という状態になる必要があるからです。そういった状況に持っていくためには、営業やマーケティングへの注力、ターゲットとする領域の変更のようなピボットの判断も選択肢としてあり得ると思います。

田原:ちなみに、岡島さんご自身が考える4つのプロセスの中でも重要な点について、その他にもありましたら教えていただけますか。

岡島氏:例えば、顧客が課題を感じているかを確かめるためのヒアリング一つをとっても、誘導尋問に近い質問では意味がないと考えています。「こういうサービスがあったら便利ですか?」という質問の仕方ではなくて、「昨日こういう出来事がありましたか?」「その出来事に対して、どういう手段をとりましたか?」というように事実を聞くことに意味があります。

他には、競合に対する考え方も4つのプロセスを遂行するために重要です。ある顧客が〇〇という課題を感じていているとすれば、その課題を解決をするための解決策自体が競合になります。身近な例を挙げて説明すると、A地点からB地点まで早く到着したい(課題)という場面では、「走って行く」、「バスに乗る」、「電車を使う」といったそれぞれの解決策同士が競合になるのです。

ただ、多くの企業が解決策を競合として捉えるのではなく、技術的な競合に目がいってしまいがちです。「走る」、「バス」、「電車」という解決策には目もくれず、「セダンが速い」とか、「ランボルギーニの方が速い」という技術的な部分に無意識にフォーカスをしてしまうのです。なので、競合が技術的な競合になっていないか、バイアスによって歪められていないかについて定期的に振り返ることが大切です。

PMFの達成の明確な基準とは

田原:競合の考え方一つをとっても大事な要素が詰まっているんですね。それでは、ここからは会場の皆さんから寄せられた質問に答えて頂きましょう。早速、「PMFを達成したと言えるための明確な基準はあるのでしょうか」という質問がきていますね。

岡島氏:こちらはハードウェアを例に説明します。一般的に、ハードウェアを製造して、顧客へ納品する場合には、少なくとも1週間程度は時間が必要です。製造だけでも4-5日は期間を要するので、その間に沢山の注文を頂いて、対応しきれないとなれば、その製品に関してはPMFを達成していると言えるでしょう。PMFを達成できたら、あとは製造速度をあげるための工夫をすれば良いだけになると思います。

ソフトウェアのPMFに関して言えば、ハードウェアと比べると少し話が複雑になります。webサービスであれば、僕の肌感覚を基にお話をすると、広告にかけたお金の分だけユーザーも増えて売上になる状態ならPMFを達成できたと言えると思います。「サービスを知ってもらえれば、ユーザーに使ってもらえる状態」ですね。

田原:この質問に関連して、「資金が少なく、PMF前のスタートアップでは、どのようなチームで新規事業に取り組むと良いのでしょうか」という質問が来ています。スタートアップも悩むポイントかと思うのですが、こちらいかがでしょうか。

岡島氏:そのようなフェーズのスタートアップに大切なのは、トライ・アンド・エラーをどれだけ身軽に繰り返すことができるかに尽きます。そのためにも、手が早く動いて、顧客のそばに行きヒアリングや観察を行うことができる、フットワークの軽い人がチームに貢献すると考えています。

さらに言えば、このフェーズでは、チーム編成時に「営業職」、「エンジニア職」のように特定の職務に分けること自体に問題があると思います。2〜3の職種を担当できる人間をコアメンバーに揃えないと組織が上手く回らない可能性が高いというのが正直な意見ですね。

なので、専門職系の方ではなくて、オールラウンダーで手が早く動き、フットワークの軽い方とチームを作っていくのが適切ではないでしょうか。

チームは、人数ではなく役割で考える

田原:ちなみに、チームの人数はどのくらいが適切なのでしょうか。

岡島氏:初期段階のチームの人数に関しては、大きく「経営」と「技術」の2つの軸に「今」と「10年後」の2つの軸を足して、マトリックスにして説明できると思います。「10年後の経営を考える人はCEO」「10年後の技術を考える人がCTO」「今の経営を考えるのがCOO」「今必要な技術を考えるのが技術責任者」で、この4象限を何人で分担するかを考えます。一人で全ての機能を担えるのであれば1人でも良いと思いますし、4人必要だなと思えば4人が適切だと思います。なので、人数で考えるよりも役割で考えるというのも良いかもしれませんね。

田原:人数ではなく、役割で考えるという視点もあるんですね。それでは、時間もなくなってきましたので、次の質問にいきましょう。「自分のプロダクトを営業するためのノウハウや人脈が少ないときはどうすれば良いでしょうか」という質問がきています。

岡島氏:サービスを世に広め、スタートアップを大きくするためには、自分達のプロダクトのファンを増やすことが不可欠です。それに加えて、そのプロダクトが無くなると困るから応援せざる負えないという状況を作ることも重要でしょう。

では、このようなファンを増やすにはどうすれば良いのか。答えは単純で、顧客の課題を、自分たちのプロダクトで解決し続けるしかないと思います。課題を解決し続けた先で獲得したファンが一般消費者なら、PMFに入る前の熱狂的なユーザーになるでしょう。また、最初はプロダクトのファンの1人だったある顧客が、コミュニケーションをとり続けるうちにいつの間にか自分達のチームメンバーになっていたというケースも聞きます。このようなことが増えていくと、自然と人脈やコネは広がっていきます。なので、初期の顧客に対してどこまで深く向き合えるかが大切ですね。

長く愛されるサービスを作るには

田原:こちらで最後の質問になります。「5年、10年先も続く長く愛されるサービスとはどのようなサービスでしょうか」という質問がきていますが、岡島さんいかがでしょうか。

岡島氏:日本は2050年には人口が1億人を切ると言われています。対象的に中国では、新たにTikTokを始めたユーザーが2日で350万フォローを獲得する例もあります。何が起こっているのか、よく分からないスケールですよね。この背景を踏まえると、中国くらい市場が大きければ、ニッチな領域で新規事業を初めても、数千万単位で顧客を獲得できる可能性があります。これから先、長く愛されるという意味では、中国に限らずですが、市場が大きいところで勝負をするというのが方向性の一つとしてあると思います。

また、愛されるという文脈では、「誰かをハッピーにする」且つ「適切なビジネスモデル」が確立されているという2点がポイントになるのではないでしょうか。この部分に関しては、これまでも、そしてこれから先も変わらないと思います。とは言うものの、この2点を成り立たせるためのハードルは、今も、昔も、物凄く高いです。普段から顧客の抱える課題を高い解像度で観察できるか、この視点に大切なポイントが詰まっているのではないかと、今は考えています。

田原:それでは本日のイベントは以上になります。岡島さん、本日は貴重なお話ありがとうございました。