時代の変化を嗅ぎ分ける嗅覚はあるか 福岡発のエコシステムでイノベーションを(前編)
早稲田大学在学中に起業家へのインタビュー記事を掲載するメディアを立ち上げ、そのインタビューが縁で、2011年にはサムライインキュベートへ⼊社。現在は、2016年にベンチャーキャピタルF Venturesを設⽴し、福岡を拠点として累計30社超に投資をしている両⾓将太さんの素顔に迫った。
目次
起業家に会うためにメディアを立ち上げる
−現在、福岡を拠点としてF Venturesの代表をされている両⾓さんですが、ベンチャーの世界に進んだきっかけを教えてください。
僕は、福岡県の出身で、大学で早稲田大学に進学するまで18年間福岡に住んでいました。
大学では、公認会計士を目指して勉強をしました。将来経営者になりたいと思っていて、会計士になれば、色々な企業を見ることができて参考になるだろうと思ったんです。
大学の前にある大原簿記専門学校に通っていたのですが、最終的に会計士には向いていないと思い、途中で勉強を辞めました。学生時代は手に職があれば生きていけると変に思い込んでいたんですが、実際に会計士の方と会う中で資格よりももっと大事なものがあると気付かされました。
そこで、とにかく経営者になるための近道を探そうと思いました。すでに大学4年生で、就職活動もしていなかったのですが、なぜか「なんとかなるだろう」という根拠のない自信がありました。
「経営者にマンツーマンで会える機会はどうしたら作れるだろう?」と考えたときに、「インタビューをさせてもらえばいいんだ」と思いつきました。
そこで、すぐに「Entrepreneurs’ mind」というIT起業家特化型インタビューメディアを立ち上げて、20名くらいの起業家にインタビューをしました。
その中の1人に、サムライインキュベートの榊原健太郎さんがいて、気に入っていただいたのか、インターンとして採用してもらえることになったんです。それがベンチャーの世界に足を踏み入れたきっかけです。
−経営者に会うためにメディアを作ったわけですね。すでにプチ起業みたいなことをされていますね。
はい。収益をあげているわけではなかったのですが、色々な人に見ていただけるメディアになりました。
その頃は、スタートアップという言葉が世の中に出始めた時期。榊原さんの他にも、西川潔さん、山田進太郎さん、磯崎哲也さん、家入一真さん、宇佐美進典さん、柳澤大輔さん、岩瀬大輔さんなどにインタビューをさせていただきました。
プロのライターさんに添削してもらって、コンテンツのクオリティを担保しました。最初は、アポ取り、インタビュー、書き起こし、構成を考えることも自分でやっていましたよ。
なんとなくの思いつきで「起業」についてGoogleのリアルタイム検索で探してみると、磯崎さんのセミナーがヒットして、何も知らずに行ってみたらベンチャーのど真ん中だったということもありました。磯崎さんからもこの業界のことや、様々な起業家の方を教えていただきました。
榊原さんは、トーマツベンチャーサポートを立上げる前の斎藤祐馬さんからご紹介いただきました。
次第に仲間を集めるようになって、「これは起業だな」と自分でも認識し始めます。この体験は、今もすごく活きています。
日本では珍しかったVC・大企業連動型アクセラレーションプログラムを開催
−サムライインキュベートではどのような活動をされていたのですか。
2011年にサムライインキュベートに入社し、最初の1〜2年は、イベントの企画・運営や広報のような仕事をしていました。小さな勉強会のようなイベントから大きなイベントまで2日に1回以上、年間200回ほどのイベントを開催していました。ブログも書いていましたね。また、当時⽇本最⼤級の「SSI」というコワーキングスペースの運営責任者も兼務していました。
失敗もたくさんしましたが、挑戦させてもらえる素晴らしい環境でした。また、様々な起業家の方に会うきっかけをいただきました。人脈もできるし、仕事のスキルも学べて、人前で話す経験も積むことができた重要な時期だったと思っています。
その後は、スタートアップだけでなく、大企業の新規事業担当の方にも参加していただけるようなイベントの運営も担当しました。これはCVC (Corporate Venture Capital:コーポレートベンチャーキャピタル)がはやる前で、大企業がスタートアップと何かできないかを模索している頃の話です。
2014〜2015年になると、大企業に営業に行き、契約を結び、納品するところまで経験させていただくようになりました。億単位の売上をあげたり、他のVCにはないビジネスモデルを作ったりと、貴重な経験を積みました。
具体的には、大企業の方に、スタートアップとのマッチング、ハッカソンなどを提案していました。また、ディズニーやナイキと組んで成功を収めていたTechStarsのアクセラレーションプログラムのようなことを、日本でも展開したいと考え、徹底的に研究し、当時の日本では珍しかったアクセラレーションプログラムをIBMさんと組んで開催しました。10社ほどのスタートアップを採択して、大企業のリソースを使いながら支援をしていました。
「福岡」で「創業支援」“ならでは”のファンドを組成
−サムライインキュベートでの経験は事業を作ることだったのですね。どのような経緯で投資の道に進むのでしょうか。
「30歳になる前にチャレンジしたい」と思っていたこともあり、サムライインキュベートを卒業することにしました。
もともと投資に関心はありました。ですから、自分でやるなら「VCだろうな」と考え、ファンドを組成することにしました。
とはいえ、会社を辞めた時の預金は、今考えると信じられないほどわずかで笑。お金がないので、ユーザーローカルさんからお仕事を頂き、プレスリリースを書いたりイベントの企画を作ったり、広報の業務委託を頂きながら生き延びていました。
−それくらい新しいことにチャレンジしたかったのですね。サムライインキュベートを「退職した」ではなくて、「卒業した」と表現なさるのはどうしてでしょう。
退職や転職と言うと、心も離れた感じがして寂しいじゃないですか。榊原さんは、今も変わらず兄貴のような存在で、相談させていただいています。サムライインキュベートにはOBとして、今も関わっているような気持ちです。
−卒業してどのようなVCになろうと考えたんですか。
VCは増えていますが、コモディティ化していると思うんです。起業家から見て、どこも同じに見えてしまう。そういう意味で、僕自身の特色を活かして差別化を図りたいと考えました。
特色とは何だろうと考えると、自身のルーツである福岡での設立が思い浮かびました。
当時から福岡のスタートアップは盛り上がっていたんです。しかし、アーリー以上のVCはいても、シードのリスクをとれる人、創業支援をしているVCがいないということに気が付いたんです。
僕がその穴を埋めることで、福岡のスタートアップをさらに盛り上げていけるはずだと考えました。
後編に続く