SaaSを愛してる。人口減少が止まらない日本は、SaaS大国になるチャンス。

2019.05.21

学生時代にインディーズミュージシャン向けのサービスで起業を経験。新卒入社したBEENOS株式会社での投資部門立ち上げを機に、投資家としてのキャリアをスタート。現在は、BEENEXTのManaging Partnerとして国内外のBtoB SaaSのスタートアップへ投資を行なっている。 

第1弾では、前田さんの歩んできたキャリアと魅力的な起業家の条件について伺った。 
第2弾の今回は、「SaaSを愛している」と語るほどSaaSに魅せられた前田さんに、SaaSの魅力を語っていただきました。

シリコンバレーでSaaSに出会い、そして惚れる

SaaSに惚れてからSaaS以外には投資できなくなったと伺ったのですが、SaaSとの出会いについて教えてください。

2011年にFONDというシリコンバレーのスタートアップの代表を務める福山太郎さんに出会ったことがきっかけで、SaaSの存在を知りました。福山さんは、シリコンバレーでBtoB SaaSの従業員向け福利厚生サービスを展開する会社を起業しており、日本人として初めてYコンビネーターの資金調達イベントで150万ドルを集めた実績を持つ方です。僕自身は、投資家の立場でFONDへ携わっていたので、福山さんと事業についてディスカッションをすることも多く徐々にSaaSに魅力を感じるようになりました。

その後も様々な企業への投資を通じてSaaSについて学んでいたのですが、2014年にSmartHRに出会って以来、ますますSaaSを好きになりました。SaaSというのは、矛盾が少なくて、美しいものだと改めて認識しましたね。

SaaSのモデルは矛盾が少なくて美しい

「SaaSは矛盾が少なくて美しい」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

まず、僕の中では「クラウドを通じて新しい価値を生み出している」、「売り抜きではなく継続して支払いがある(月額払い、年額払い)」という2つの条件に満たしていればSaaSに該当すると定義付けています。

SaaSのサービスは、必要な機能だけを必要な時に使えて、使った分だけの対価を支払うことで成り立っています。だから、サービスの提供を受ける側は、使いたい時にたくさん使って、必要なくなれば解約をすれば良いことになります。SaaS企業側は解約されるのを防ぐために顧客の目線に立った売り方や販売後のフォローの仕方を考えます。

そのため、SaaS企業は自分たちのサービスを使うことでハッピーになれそうな顧客ターゲットを選ぶことに時間を費やしますし、実際に顧客にハッピーになってもらうにはどうすれば良いかという視点を持ち続けることになります。自分達のサービスを顧客に長く使って貰うことで収益の向上を目指し、顧客側は自分の状況に合ったサービスを好きなように利用できるSaaSのモデルは矛盾が少なくて美しいと感じますね。

世界一のSaaS大国になる可能性を秘めている日本

最近では、SaaS企業への投資が活発で世間からの関心も高まっているように見えるのですが、この傾向は今後も続くと思いますか。

僕自身は、SaaSが現在のような注目を浴びる前の2015年に、年間で10社近くのSaaS企業へ投資を実行したことがあります。SaaSに惚れたことがきっかけで、出会うSaaSのサービス全てに興奮してしまった時期だったのを覚えています。それ以降もSaaS企業への投資を続けており、インド、インドネシア、アメリカでも投資をしているのですが、今一番SaaSを欲しているのは日本だと思っています。アメリカでは、去年だけでSaaS企業が10社ほど上場し、アメリカマーケット全体がSaaS企業へ大きな関心を寄せている状況ですが、世界一のSaaS大国になる可能性を秘めているのは日本だと信じています。

今の日本は労働人口が減少しており、今後も減少の一途を辿ることが予想されます。特に、人手不足が深刻なエンジニアは、2030年には約60万人不足すると言われています。このような状況を考慮すると、1人あたりのアウトプットを向上させるために、効率化や自動化のニーズが高まっていきます。そうすると、どんなに古い業界でもSaaSを取り入れないと生きていけないという危機感が生まれてくるので、SaaSへの需要は大幅に拡大します。だから、現状最もSaaSを必要している日本では、SaaSを利用した様々なサービスへの関心がどんどん高まっていくでしょうし、SaaS企業の勢いも止まらないと思いますね。

「素直さ」がSaaS企業の成長に繋がる

これまで数多くのSaaS企業を見てきた中で、最も洗練されたSaaS企業があれば教えてください。

SmartHRはSaaS企業の中でも優れている部分が多いと感じます。まず、社長も含めメンバー全員が「素直」なところが最高です。その「素直さ」がSaaS企業の成長には物凄く大事だと思うんです。というのも、SaaS企業の場合、売上の拡大につれ、CSの機能がさらに重要視されて、顧客の要望に対応するために営業やエンジニアを増やす必要が出てくるので、組織の規模が拡大します。組織が拡大すると、企業の在り方が変わり、社内でのコミュニケーションの仕方も当然変化していきます。だから、「今まではこういうやり方だったのだから、頑固に突き進め」というよりは、「変化しているのだったら、僕らも一緒に変わろう」という具合に、その時々の状況を受け入れる「素直さ」が必要になります。SmartHRの社員全員に、その「素直さ」が当初からあったんです。

また、SmartHRは、サービスをリリースするタイミングが絶妙だったと考えています。顧客のニーズを見極めて、「人を採用するよりも、SaaSを入れた方が組織が強くなるよね」ということが理解されやすい絶妙なタイミングでマーケットに参入しました。それを可能にしたのも、「どんな課題を解決するのか?」、「それを自分たちがやる意味って何?」という2つのことを徹底的に考え続けた結果かもしれません。いずれにせよ、SaaSのサービスでマーケットに参入する「タイミングの見極め」が秀逸だったと思います。

投資家としてのモチベーションは、誇りを持てる企業と関わること

最後に、SaaSを愛してやまない前田さんご自身の今後の目標について教えてください。

僕は、投資家として10年ほどスタートアップ投資を経験しました。最近、「投資家としての自分のモチベーションは何か」について考える機会があったのですが、出てくる答えはシンプルで「誇りを持てる企業と関わること」に尽きます。

ただ、自分が関わっていることに誇りを持てるような経済的・社会的インパクトが大きい企業というのは、BtoB SaaSの領域に限って言えば、年に3社程度しか出会えないと考えています。だから、今後は投資先を徐々に限定しながら、より自分のモチベーションを高く保てるような投資をしていきたいですね。

また、僕はこれまでたくさんの企業に投資してきましたので、失敗したこともたくさんありました。組織が機能しなくなってしまった投資先や、事業が上手く行かずに途中で崩れていく投資先も見てきました。でも、そういった失敗から学んだ教訓が今の自分の投資スタイルを形作っていることも確かです。そして、この先も、この業界にいる限りは失敗をし続けると思います。投資の世界に100%の成功なんてないからです。だから、自分ができることをやり尽くして、適切な判断をした結果の失敗は受け入れることで、成長への糧にしていけたらと思います。