ハードシングスなんて、案外起こらない。これからの時代は、もっと気楽にいこうよ
2018年1月に「既存産業×テクノロジーで新規事業を創出する」をコンセプトとしたXTech(クロステック)を設立。同社を設立後まもなく、老舗インターネット企業「エキサイト」に対するTOBを実施し、大きな注目を集めた。その後も2〜3ヶ月に1社のペースで様々な業種の子会社の設立、M&Aを手掛けている。
現在はXTechの代表を務めるとともに、 XTech Venturesでは創業者ジェネラルパートナーとして活躍をしている。前編に引き続き、経営者としても、投資家としても手腕を発揮し、数多のトラックレコードを残してきた西條さんの投資家としての素顔に迫った。
目次
起業家のバックグラウンドに重なったビジネスで勝負する
−「注目するコミュニティに所属しているか」という判断基準の他に、魅力を感じる起業家に共通点はあるのでしょうか。
今までにたくさんの起業家にお会いしてきた中で、「この起業家はいいな!」と判断する基準は何パターンかに集約されます。最も大事なのは、「その起業家が、このビジネスをやることが理にかなっているか」という点です。
「営業としてキャリアを積んできた人が営業系のビジネスを始める」のと、「営業としてキャリアを積んできた人が、突如AIのビジネスを始める」のとでは大きな違いがあります。起業家自身が、今まで歩んできたキャリアの中で身につけた強みを発揮できる事業に挑戦をする人が、成功する確率は高いですよね。
他にも、ずっと昔から粘り強く構想していた事業に挑戦をしている人にも惹かれます。こういった強い想いを持っている人は、ビジネス的には有望でなかったとしても、最後まで諦めないでやり切る力を持っています。
理由は様々ですが、起業家の多くは事業がうまくいかずに途中で諦めてしまいます。私の経験からいうと、諦めてしまうような局面を突破した先にチャンスがあります。そのチャンスを掴めるのは、ずっとやりたいと思っていた自分の好きなことに挑戦している起業家だと思います。
投資先の支援方法は「社長」か「警備員」
−投資決定後は、どのような形でスタートアップ企業の成長を支援していきますか。
大型の資金調達支援、営業先や人材の紹介など、相談いただければ積極的に対応します。とはいえ、基本的には投資先を信頼しているので、頼まれるまではあえて放置していることも多いです。
私自身、サイバーエージェント在籍時は藤田社長から細かな指示を受けるのではなく、裁量を与えられて自走させてもらえたから、力を発揮することができました。つまり、私は放ったらかしにされた方が成果を出せるタイプの人間だったのです。このような経験から、自走できるタイプの起業家であれば、投資後は相談がなければ、あえて放置しながら影で見守るようにしています。
この投資後の僕のスタイルを例えると、「警備員」といえるかもしれません。警備員は必要不可欠な役割ですが、事件が発生するまでは見守ることが仕事です。しかし、いざ事件が発生した際には、迅速に対応をする準備ができている。ですから、何もしないで見守るだけというのも立派な仕事なのです。
一方、ハンズオンで支援をすることもあります。WiL在籍時に、WiLとソニーグループが共同出資でジョイントベンチャーとして設立したQrio(キュリオ)では、ソニーグループが同社を買収するまでの期間は代表取締役社長に就任し、経営しました。他にも、XTechの新規事業で子会社を設立する際は、ハンズオンで自ら立ち上げにコミットしていますし、設立当初は社長を務めています。基本的には、ハンズオンで支援する時は「社長」、それ以外は「警備員」としてスタートアップの成長を見守っています。
思っているほど、起業をすることにリスクは存在しない
−投資家と経営者として、経験豊富な西條さんですがキャリアの中でのハードシングスはありましたか。
ハードシングスは正直なところないですね。ハードシングスの定義にもよりますが、私の中では大きなチャレンジをして、背負い切れる限界の失敗をすることをハードシングスと思っています。ですから、ハードシングスを経験している人は、裏を返せば背負える限界のチャレンジを許されるくらいの実力があったということになります。僕自身はハードシングスを経験するには至っていないので、逆にまだまだチャレンジが足りないのかもしれません。
起業家には、苦労がつきものだと思われがちです。しかし、そんなことはありません。経営者全員が苦労しているという捉え方が広がると、起業することを躊躇してしまう人が増えてしまいますよね。
僕自身は「案外ハードシングスなんて起こらないから起業しようよ」って伝えたい。起業には、世間が思っている程のリスクはないですし、辛いこともないというイメージを浸透させていきたいです。苦労をすることが美談なのは古い考え方だと思いますし、これからの時代はもっと気楽に挑戦できたらいいですね。
辛い瞬間よりも、嬉しい瞬間が圧倒的に多い
−「案外ハードシングスなんて起こらない」というのは力強い言葉ですね。最後に、これから起業を考えている方や、今起業家として奮闘している方々へメッセージをお願いします。
事業をしている中で、嬉しい瞬間がたくさんあります。例えば、仲間が増えたとき、KPIを達成して事業が上向き出した瞬間、サービスを使ってくれる方が増えたときなど。嬉しい瞬間というのは数えきれないですね。
起業に対する価値観も昔と比べて、多様になったように感じます。今は「気がついたら起業をしていた」という生まれながらの起業家タイプだけでなく、「いきなり起業ではなく、徐々に起業の準備をしていた」という人も増えている印象です。副業として経験を経て、スキルを積み上げてから、「これなら上手くいく」と手応えを得てから起業をするのも一般的になってきたと思います。「0→1」で何もないところから起業家になることだけが、選択肢ではなくなってきました。
繰り返しにはなりますが、外部環境も変わり起業をしやすい世の中になったからこそ、起業は辛い瞬間よりも嬉しい瞬間の方が圧倒的に多いということを伝えたいです。