僕は答えを教えない。答えは起業家の内にある。人気エバンジェリストの手腕。

2019.09.30

エンジニア、開発現場改善コンサルタントを経て、エバンジェリストとなった長沢さん。現在、約10社のプロダクト戦略、マーケティング戦略などを請け負う。「答えを出すサポート」ではなく、「ともに答えを考え並走する支援」を重視し、多様な企業から信頼を得る長沢さんに、お仕事内容やその真髄を聞いた。

あらゆるご相談にお応えするオーダーメイドサポート

現在のお仕事と企業へのご支援内容や方法を具体的に教えてください。

エンジニアや開発現場改善コンサルタント、エバンジェリストなどの経験を生かして、顧問として10社ほどご支援させていただいています。

会社規模は上場企業からスタートアップ企業まで、支援内容は開発の現場からプロダクト戦略、マーケティング戦略、事業立ち上げまで、ニーズに応じて柔軟に対応しています。

例えば、あるSI企業へはエバンジェリストとして、SI部門の支援をしています。SI部門では、さまざまなプロジェクトを抱えており、組織として自立して機敏に動き、判断できるようになっていくことが求められています。開発担当の役員と本部長とともに、隔週で1日中張りついてご支援させていただいています。

Nota inc.さんは、ブランディングとマーケティング全般のご支援をしています。

少し詳しくご説明をしますと、ブランディングとして、情報共有や考え方を整理するツールであるScrapboxの知名度アップのための戦略立案をしています。

昨年、ファーストステップとして、ユーザーやマーケット見込みなどを詳細に観察するようにアドバイスしました。すると、ある層でかなりコアなファンがいることがわかったのです。

次に、そのファンの方たちと接点を作り、自然とインフルエンサーになってもらいました。サービス内容をファンの先にいる方々に届けることで、知名度を高めていったのです。

少し話は逸れますが、コアファンがいるサービスはとても強いものです。サービスの質の良さはもちろんですが、ユーザーの状況にマッチしていなければコアなファンにはなりません。そのため、ユーザーをよく観察して、ユーザーからフィードバックをもらえる関係になることは、重要だと思っています。これらに加えて、イベント開催やその効果測定の方法なども一緒に考えています。

他にも数社顧問としてブランディングとマーケティングに関して、相談事項があった際にサポートさせていただいています。よろず相談みたいな感じですね。こちらからもマーケットの状況を見て提案もさせていただきます。

例えば、設立2年の会社でもパートナー企業が10社を超える企業もあったり、プロダクトがオープンソースでその開発とサポートでビジネスされている企業であったりです。企業の立ち上げ気にサポートさせていただくことも多いですが、大きな企業や実績が十分にあるプロダクトのモダナイズでプロダクト戦略、マーケティング戦略、開発プロセス改善までアドバイスをさせていただいたりもしています。

私のところには、「何とかしたいけれど、どうしたらよのかわからない」や「今はうまくいっているけれど、さらに成長させる方法が思い浮かばない」といった漠然としたご相談が多く寄せられます。困った時に、「そういえば前に付き合いのあった長沢は、色々相談に乗ってくれたな」と思い出していただけるようです。

たいていの場合、「ちょっと遊びにおいでよ」とお誘いいただいて、伺うと「実は相談があって……」と切り出される流れです。

社外に目を向け、コミュニティをつくりマーケットを育てる

これまでの人生で一番大変だったことを教えてください。

もともと慎重なタイプでしたが、いつしか大雑把なタイプに変わっていきました。喉元過ぎると忘れてしまう性格になったんです。振り返ると、事業部が分社化されたり、他社に買収されたり、事業縮小になったりとけっこう大変な経験をしてきました。いつも多くの人に支えられて、乗り越えてきたように思います。もちろん不安を感じるのですが、本当に窮地に立たされると前しか向かないタイプなので、大変だった頃の記憶は抜け落ちてしまうんですよね。

また、最近になって、「すべて自分の責任だ」という思考になっていることに気がつきました。分社化、買収、経営の傾きもすべて自分が選択した結果なのだから仕方がない。また自分で選んでいけばいいじゃないか、と考えるようになったんです。

実のところ、何度も手柄を横取りされたこともあります。しかし、そういう時でも怒らない。どんな時でも、わかってくれている人はいると信じているからです。それに横取りできるくらいまだ自分にはチカラが足りていなかったわけですからもっと精進しないとです。

マイクロソフトでエバンジェリストとなったことで、自己責任の思考に変わりました。また、会社の外に目を向けて、コミュニティをつくり、マーケットを育むことに力を入れるようになっていきました。会社の中で評価されることも大事ですが、これからは、社外で評価されることを大事だと思うようになったのです。

答えを与えるのではなく、クライアントとともに走る

長沢さんのご支援の仕方の特徴を教えてください。

私が支援するにあたって大事にしていることは、「クライアントと一緒に走ること」です。私が持っている答えをそのままレクチャーすることは好きではありません。

「私が知っている答えなんて、所詮、過去の経験でしかないので、たかがしれている」と考えているからです。これからの時代は、1ヶ月後には違う答えになっているというのが当然になっていきます。そのため、過去の成功経験をそのまま転用しても成功はしないのです。臨機応変に考えて、必要なことを追いかけ続けていかないと、現代社会に通用する答えは見つけらません。

そのため、お仕事の話をいただいた時に、「答えを教えてほしいというご要望でしたらお役に立てません。答えを一緒に考えていくことはできます」とお話します。形式知ではなく、暗黙知を提供すること、そして、私の思考・判断プロセスをお伝えできればいいなと思っています。

ですから、クライアントには、カウンターパートになる主担当の方をつけてもらうことにしています。丸投げされて、請け負うということはお断りしているのです。

人やプロダクトの良いところを見つけて伸ばすのが得意

ご支援のノウハウがあれば教えてください。

ビジネスのご支援の仕方に、正解はありません。そのため共通のノウハウが使えるわけではありませんが、ブレない軸としているのはクライアントの担当者に「教えないこと」と、「傾聴と壁打ち相手になること」です。

1つ目の「教えないこと」は、先ほどもお伝えしたように、私の持っている答えは過去の経験でしかないからです。私の経験や答えを伝えてしまったがゆえに、柔軟な若い人たちの発想を潰してしまうことになるかもしれません。それは、とてももったいないことですよね。

2つ目は、「傾聴と壁打ち」について、私はメンタリングと呼んで重視しています。彼らの発想や悩みをとにかく聞いて、どうやって解決していくかを一緒に考えます。実は、誰もが自分の中で答えを持っているものです。しかし、それに気づいていなかったり、自信がなかったりして表に出していない。ですから、私の役割は話を聞きながら、良さそうな発想を後押ししたり、話を深掘りしたり、そのアイディアがうまく実行できるようにサポートしたりすることなのです。時には、予算確保のためにどう伝えたらよいか助言することもあります。

私は、人やプロダクトの良いところを見つけて伸ばすのが得意なのだと思います。一方で、人にプレッシャーをかけるということは苦手ですね。ですから、いまのご支援のスタイルがマッチしているのです。

自身の経験を生かし、マーケットを盛り上げたい

ご一緒したい起業家はいらっしゃいますか?

はい、3パターンの起業家と仕事をしてみたいですね。

1つ目は、担当者に権限委譲ができる起業家です。権限委譲されると担当者が自分で考えるようになります。反対に、丸投げをする起業家とは長期的なお付き合いになりません。丸投げ状態で成果を出すと、「うまくいったからそれでいいか」と思考停止してしまいます。しかし、それでは本質的な改善にはつながりません。私がいなくなれば、元の課題を抱えた状態に戻ってしまいます。

だから、経営者が覚悟を決めて権限委譲する担当者を立てることが必要です。あくまで私は、担当者が独り立ちできるまでのサポーター。最終的には、企業だけで自走していけるスタイルを築いていきたいと思っています。

2つ目は、チャレンジができる起業家です。チャレンジしたいけれど、答えややり方が見つからずに困っていて、一緒に答えを探してほしいと思っている方をご支援したいですね。

3つ目は、業界を盛り上げたいと思っている起業家です。私自身、業界を盛り上げたい、マーケットを作りたいと思っています。そのため、守秘義務を守りながら、複数の競合企業を同時にクライアントとして持たせていただいています。複数社に関わることで、私自身の知見を深め、学習し、より良いご支援をして、業界を盛り上げることができると考えているからです。

起業家へのメッセージをお願いします。

私は起業経験があるわけではないので、起業自体をお手伝いはできません。しかし、多様な企業に関わらせていただいているので、マーケットを盛り上げることはできると思っています。

また、人を雇用することは大変なことですよね。「稼働を共同所有」として、私が積んできた経験を色々な会社でシェアさせていただけたら、起業家の皆さんには、良いところ取りをしていただけたらと考えています。