学びは厳しい言葉から。情熱と誠実さが成功の鍵。当事者意識が起業を支える。

2019.06.05

今回のインタビューでは、株式会社KVPでパートナーとして活躍する御林 洋志(みはやしひろし)さんにお話を伺った。大学在学中に公認会計士試験に合格後、新卒で有限責任監査法人トーマツに入社。同社を退職後にシリコンバレーでのスタートアップ支援を経て、2013年から日本で投資家としてのキャリアをスタート。現在は、数多くの起業家・組織を見てきた経験を活かして、シード・アーリーステージのベンチャー企業への投資支援、資金調達、経営支援に従事している。投資家として起業家から信頼を得るために「当事者意識の強さと共感力」が必要だと語る御林さんの投資家としてのマインドセットに迫った。

大きくなっていくベンチャー支援への想い

現在KVPのパートナーとして活躍されている御林さんですが、投資家という仕事を選んだ経緯について教えてください。

大学在学中に公認会計士試験に合格し、ファーストキャリアでは大手監査法人へ入社しました。配属されたのは「ベンチャー企業専門の特殊部隊」というような部署で、大企業向けの監査というよりもベンチャー企業向けの株式公開支援業務が中心でした。株式公開支援業務を通じてベンチャー企業を接点を持たせてもらう中で、ベンチャー企業の魅力に惹かれていきました。

そして、監査法人で働き始めて2年ほど経ったときに、「ベンチャー業界に会計士の枠に囚われずに、もっと事業・経営サイドから携わりたい」という想いが芽生え始めたんです。会計士という仕事は存在意義が大きく社会貢献性の高い仕事だと思いますが、事業・経営サイドからベンチャーを支えることが難しいことも事実でした。

そのような環境下で、ベンチャー支援に対する想いが大きくなっていき、思い切って会社をやめ、シリコンバレーに行くことを決意しました。英語が特別できたわけではないので、生活の面でもビジネスでも歯がゆい思いをしながらではありましたが、知人の紹介をきっかけに現地のベンチャーキャピタルで働いたり、スタートアップ企業のコンサルティング経験を積むことができました。

シリコンバレーでの生活を始めて1年ほど経った時、知人の紹介で日本のベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインの代表の百合本さんと朝食をご一緒できる機会をいただきました。当時私が住んでた場所から朝食会場までは電車で2時間位かかる場所でしたが、その当時は今後へ向け多くの価値観に触れたいと考えていたので、早起きして会いに行ったのを覚えています。

グローバル・ブレインの百合本さんとの朝食の席で「日本でベンチャーキャピタルで働きませんか?」とお誘いをいただきました。もともと、私の中の大きな目標として、「自分が生まれ育った日本の経済に貢献したい」という気持ちがありました。

また、シリコンバレーでの実務から、スタートアップと大企業の距離感が近く、ベンチャーエコシステムの中で大企業の果たす役割は非常に大きいなと実感していました。特に、当時グローバルブレインはKDDIのファンドを設立して間もないタイミングだったため、通常のVCの仕事だけでなく、大企業を通じたエコシステムを活用して、ベンチャー起業の成長に貢献ができるのではないかとも考えました。このような経緯もあり、グローバル・ブレインで働くことを決めました。

投資先の経営者からの言葉が転機に

投資家として駆け出しの頃の失敗したエピソードなどあれば教えてください。

グローバルブレインで働き初めて1年目の終わり頃に、私が初めて投資をした先の経営者から激怒されたことがあります。この出来事がきっかけで、私の投資家としてのスタンスが大きく変わりました。

VCの仕事では、経営者の方々と事業のディスカッションを頻繁に行います。その時も私は事業のディスカッションをさせていただいていたので、自分一人では判断しづらい内容であったため、適当なことを言って迷惑をかけないように、「一度社内で確認させて下さい。」という形での対応に終始して、自分の意見を表明しなかったんです。その時、経営者の方に「意見を言わない人がここにいることに何の意味があるんですか。僕たちはスピードが命なんです、焦ってるんです。」と大声で怒鳴られました。会議室全体に響き渡るような声だったのを今でも覚えています。

事業の今後を左右する重要な意思決定を、物凄いスピードで行う経営者と私とでは、物事を考える際の時間軸が合わなかったといこともあると思いますが、何より個人でリスクをとって挑戦している経営者に対して、会社としての考えを気にして自分の意見を言わない私は、経営者からすれば当事者意識が欠如した信用に値しない人物だったのです。

ただ、この時に経営者から叱って頂いたことで、スタートアップと仕事をする上で「会社の判断より先に自分の意思を表明する」というスタンスが必要不可欠であることに気づきました。もちろん確認作業も必要にはなりますが、「ここまでお話を聞いて、私個人としてはこの方向性で問題ないと考えています。これでいきましょう。会社には後で私から説明しておきます。」のように、その場での自分の見解を伝え、明確な意思表示することに意味があるのだと学びました。

上述のような出来事もありましたが、当時厳しい言葉をかけて頂いた投資先の経営者の方とは、その後深い信頼関係を築くことができ、今でも仲良くさせて頂き、定期的におたがい相談をさせて頂く間柄です。まだ私が若いキャピタリストであった時に厳しい言葉をかけてくれたのは、本当にありがたい出来事だったと感じています。これからも投資家としてのキャリアを積み上げていきますが、この経験から学んだ「当事者意識を持ち、まずは自分の意思表示をすること」の大切さは一生忘れません。