積み上げてきた知見を、これから会う起業家へ。マーケットを創る「チーム」力の真意とは。

2019.07.03

「投資を検討する際に見ているのは、“経営者の傾聴力”」と語るのは、投資家として数多のトラックレコードを残してきたDNX Venturesの倉林 陽さん。米系VCのGlobespan Capital Partners及びSalesforce Venturesの日本投資責任者を歴任し、これまでに投資を実行したBtoB SaaSスタートアップは50社を超える。 

今回のインタビューでは、約20年に渡りVC業界の最前線で活躍を続け、現在も10社のスタートアップの社外取締役を務める倉林さんに投資家としての真髄を伺った。

将来のキャリアを想像できない会社を求め富士通へ

現在はDNX VenturesのManaging Directorとして活躍されている倉林さんですが、どのような経緯でVC業界でのキャリアを歩み始めたのでしょうか。

新卒では、将来のキャリアを想像できない会社で働きたいと思い、大手IT会社である富士通へ入社しました。自分が何歳になった時にどんな仕事をしていて、どのポジションにいるかを想像できてしまう業界よりも、先は見えないけれど、今後拡大していくことが確実であるIT業界に魅力を感じたことを覚えています。同社入社後しばらくは、携帯電話基地局システムや富士通製CRMの営業として経験を積ませていただき、3年目に社内公募制度を利用して経営企画室に異動しました。営業部門では多くのことを学ばせていただいた一方で、このまま営業としてのキャリアを積んでいくだけでいいのかを悩み、コーポレート部門への異動を希望したという経緯があります。経営企画室に異動をしてからは、CVCの業務を担当させていただくことになり、この時から現在に至るまでVC業界でキャリアを積み上げてきました。

集まってきた集合知を、これから会う経営者へ

現在のお仕事と企業へのご支援内容や方法を具体的に教えてください。

シリーズAのスタートアップを中心に投資実行、その後のご支援をしています。また、投資をさせて頂いたスタートアップ10社の社外取締役も務めており、経営者に近い距離感でコミットをしています。

具体的なご支援の仕方は、投資先の状況に応じて変わってきます。経営が順調で、事業が軌道に乗っている投資先に対しては、月一回の取締役会で状況をモニタリングさせていただき、更なる成長を後押しできればと思っています。その一方で、成長途中の投資先に対しては、投資先の状況に合わせて個別に時間を使って様々な形でご支援をしています。

経営者の意思決定に並走させていただいたり、事業計画を一緒に作成することもあれば、私自身が面接官として投資先企業の採用面談を行うこともあります。採用に関しては、私が採用面談をすることで、経営陣や優秀な社員を採用できる可能性を上げることができるのであれば、いつでも駆けつけるということはお伝えしています。他にも、投資先の経営者をアメリカへ招待して、現地のカンファレンスに一緒に参加することもあります。投資先の経営者との出張中は朝から晩まで経営者と仕事の話をすることも珍しくありません。

このような形でこれまでに多様なスタートアップへのご支援をしてきましたので、私の元には経営者からの集合知が集まってきます。そのため、個別の案件ごとに、どのようなことに困って、その時にどのような課題解決方法を実行したのかといったデータも蓄積されていきます。そして、こういった集合知を、次に会う経営者に伝達させていただくことに大きな価値があると思っています。

VCと言っても、経営者から見て接しにくいVCには自分の困っていることなんて相談しません。おそらく、経営者は「事業は順調です」としか言わないでしょうし、結果としてそのようなVCに集合知は集まりません。そういった意味でも、経営者から信頼されて何でも相談していただけるような存在でありたいという想いを持って、ご支援をしています。

チームが良ければ、マーケットを作れる

投資判断の際の基準についても伺いたいのですが、判断にあたり最も重要視するポイントについて教えてください。

投資判断をする際に一番重要視するのはチームですね。チームが良ければ、マーケットが小さい、もしくはマーケット自体が存在しないところからでも、自分たちで作ることができます。また、多様なバックグラウンドを持った優秀なメンバーとチームを形成できれば、日本のマーケットでは競争力を維持することができます。Sansanの寺田さんはクラウド名刺管理のマーケットがないところからスタートをして、優秀なチームメンバーと共に今のマーケットを1から作りあげてきました。このような事例もありますので、チームを主軸にスタートアップの投資検討をすることは重要になります。

ただ、チームの評価ためには経験を必要とします。私の場合、これまでのキャリアを通じて幸いにも国内外の一流の起業家の人材を知ることができ、良いチームと出会い、ご一緒にお仕事をさせていただく機会にも恵まれてきました。そのため、ディープラーニングになぞらえるのであれば、私の中にはこれまでに蓄積してきた良質な教師データベースが存在することになります。この教師データを基にチームを見ることで、投資の判断を行っています。