『資金調達の舞台裏』 Graffity 森本氏×East Ventures 金子氏

2020.01.22

べンチャー企業の急成長に必要不可欠である資金調達、起業家と投資家、メディアでは決して多く語られない「投資までのストーリー」。スタートアップ資金調達の舞台裏に迫ります。

1.資金調達に向けて、初対面の印象は?

田原彩香氏(以下、田原):本日お越しいただきましたのは、Graffity代表の森本様、そしてEast Venturesの金子様です。まずは自己紹介をお願いいたします。

森本俊亨氏(以下、森本):スマホのAR機能を活用し、体を動かしながらバトルを行えるARバトルを提供しております、Graffity代表の森本と申します。宜しくお願いします。

金子剛士氏(以下、金子):日本国内とインドネシアを中心としたASEAN諸国に投資をしている、East Venturesというベンチャーキャピタルで、ITスタートアップのシード投資を行っている金子と申します。

田原:本日は資金調達の舞台裏に迫るべく、先日資金調達リリースを行われたばかりのGraffity森本さんと、Graffityに出資を行ったEast Venturesの金子さんにお越しいただきました。

今日がこの「舞台裏」シリーズの連載1回目なので、どんな感じになるか分からず私もドキドキしているのですが、楽しく行きたいと思います。

資金調達時に行われたやり取りやエピソードについて、表面上のことだけでなく、話せるギリギリまで話していただきたいなと思っています。(笑)

早速色々とお聞きできればと思いますが、お二人はいつ頃初めてお会いしたのでしょうか?

金子:2018年のクリスマスに、GraffityのPMを務めていた横井さんという方とbosyuというサービスを通じてお茶をしました。クリスマスに僕とお茶をしたいなんて、横井さんは変わった人だなと思いました(笑)

横井さんと六本木のカフェで事業について色々とディスカッションを行い、今後の構想や事業戦略について話が盛り上がり、CEOである森本さんに会ってみないかと紹介を受けました。そのような経緯で、年明けに森本さんに初めてお会いしました。

田原:ファーストコンタクトは、横井さんということなんですね。その後、年明けになって三人で顔を合わせられたということで、お二人のお互いに対する第一印象はいかがでしたか?

森本:僕の方は、すごく起業家目線で語ってくれる人だなと感じました。投資家の方とお話するときは、交渉のような形になって、どちらかというと理詰めされるような堅い場となってしまうことが多くあります。ですが、金子さんの場合は一緒に事業の成長ストーリーを考えてくれる人という印象でした。僕が25歳なので同じ世代ですし、ラフに話しやすいというのもあります。

金子:実は森本さんはスタートアップ業界歴が長いので、以前から存在を知っていました。僕は28歳でして、このスタートアップ業界に入ったのが、7年ほど前です。なので僕たちはほぼ同期です。(笑)

森本:TNKという東京大学の起業サークルで代表もやっていたので、18歳くらいからこの業界にいます。

ずっと金子さんのことはTwitterで拝見していたので、面識はありませんでしたが知っていました。

金子:かなりマニアックな情報だと思うのですが、何なら僕は森本さんが学生時代に別のスタートアップでオーダーメイドスーツの事業をしていた頃から知っていました。

森本:20歳の時に孫さんの伝記を読んで、起業しよう!と決意しました。それで、親から200万を借り、ECでオーダーメイドスーツを販売する事業を始めました。当時海外に先行事例があり、ベンチマークしていたのですが、やってみると全く売れませんでした。加えて自分は、特に思い入れもないスーツをなぜ必死に売っているんだと考えるようになり、今後は自分がトライする意味のある事業を展開する決意をしました。

金子:何年越しかは分からないですが、念願の初対面となりました。どこかではイベントなどですれ違っていたのかもしれないですが、まともにお会いしたのはこの時が初めてです。カップルだらけの恵比寿のカフェでお会いしました。

田原:そこから、出資まで時間がかかっていたようなので、色々あったのだと思いますが、第一印象は良かったそうですね。最初から、投資するぞと金子さんは決めていたのですか?

金子:もともと、仲介してくださった横井さんの方から、事前情報を頂いていて、今のペチャバトの戦略や数値感などを聞いていたので、会う前から面白い会社だと感じていました。

田原:森本さんは、出資して貰えそうな気がしていましたか?

森本:そうですね、出資してもらえると思っていました。そもそも自分は諦めない限り失敗はないと考えているので、うまくいかないことがあったとしても、僕の中では出来ないことが明確になった分、いい方向に進んでいると捉えます。その意味で僕は絶対に成功するまで諦めません。(笑)

田原:名言が出ましたが、この先も引き続きお話をお聞きしていこうと思います。

2.出資まで約1年を要した理由とは?

田原:お二人がお会いしたのが1年前ということですが、出資が決まって着地したのはつい最近ということで、ずいぶん長く時間がかかっていましたが何かあったのでしょうか?

金子:ずっと焦らされていました。(笑)
この辺の詳しい理由を僕も知らされていないので、裏ではいろいろなことが起きていたのではないかと思います。ちょうどいい機会なので、ここで今から洗いざらい聞きたいなと。

森本:当初、弊社では、ARバトル事業とARクラウド事業を同時に進めようとしていました。しかしリソースの問題から、どちらかにフォーカスすべきということになりまして、ARバトルの方が伸びそうだったので、ARバトル事業に絞ることにしました。初対面はそういった決断をした直後でした。

この決断によって、方向性の違いからメンバーが複数名卒業しました。

それに加え、ARバトルのクオリティが上がっていかないという課題がありました。僕らがβ版としてローンチした「ペチャバト」というARバトルに対して、ゲーム業界からは「これはまだα版だ」というような声もいただきました。

これまでにない新しいものを作っているので、世に出してユーザーや識者からフィードバックを得ることは良いことだと今も思っていますが、当時のクオリティがα版というのは認めざるを得なかったです。

そういった葛藤を経て、本当に新しいものをペチャバトの学びを生かして作ろうという大方針が決まったのがこの時期です。決めた後も、どういうものを作っていくかというコンセプトや戦略を金子さんに示すための準備期間が必要でした。

つまるところ、ハードシングスが2回連続で起きているという状況でした。自分自身精神的にもきつかったですが、なんとか立て直して今に至るといったところです。

金子:出資が完了するまでに約1年かかったのですが、そういった事情はあまりシェアされなかったので、Graffityの既存株主に反対されているのかと思っていました。既存株主の誰かがEast Venturesを嫌いなのかなと心配していました。(笑)

田原:長い間、金子さんを待たせていたと思うのですが、その間はどのようにコミュニケーションを取っていたのですか?

森本:まだ投資先でもないのに、本当に良くしていただいていました。定期的に、East Venturesが主催している勉強会に参加したりだとか、金子さんのアレンジで先輩経営者との食事会に連れて行ってもらったりしていました。

また著名インフルエンサーも紹介していただいて、今回のラウンドでエンジェル出資を受けることになりました。インフルエンスを活かしてサービスの拡散などに協力いただく予定です

田原:金子さんは、森本さんに惚れているといった感じでしょうか?

金子:全てを打算的にやっていたというわけではないですが、彼自身が素晴らしい起業家で、周囲の先輩や友人を紹介しやすかったということもあり、色々な機会に同席してもらっていました。先輩経営者が彼と話しているところを見て、僕が勉強になることも多々ありました。

East Venturesでは投資先向けにクローズドな勉強会を定期的に開催しているのですが、そこでも投資先でないのに誰よりも積極的に講師の方に質問をしていて、そのような姿勢も素晴らしいと感じました。

田原:経営者はどのような方を紹介したのですか?

金子:FiNCの溝口さんやGame withの今泉さんとご一緒する機会があったので食事に行きました。最近だとGREEの田中さんにメンタリングしてもらう会に一緒に行きました。

田原:やっぱり、良い先輩と会うといい刺激になるのですかね?

森本:なりますね。紹介いただいていた時期は、僕が経営について色々と悩んでいた時期なので、先輩方の経験に基づくアドバイスが非常に為になりました。

田原:どんなことで悩まれていましたか?

森本さん:例えば、組織に対する意識のウェイトが低く、事業がうまく行けばチームはなんとかなると考えていた時期があり、非常に悩んでいました。そういったタイミングで改めて組織について先輩方からアドバイスをもらっていました。

具体的な例で言うと、ロイヤリティーが低くてスキルが高い人を採用すべきか、というような議題でアドバイスをしていただいたりしました。

これに関しては、経営者の腕次第で採用すべきかどうかが決まるので、今の僕ではまだ採用すべきでないと先輩経営者の方々から言われたりしました。(笑)

金子:僕には1年間、Graffityがロイヤリティーが低くて、スキルが高いように写っていましたけどね(笑)

森本:確かに!!危うく切られる所でしたね(笑)

田原:金子さんはいつまで出資のお話を待つつもりだったのですか?

金子:タイミングが来たら、一番最初にお話していただけたら嬉しいなと思っていました。
僕が今まで投資させていただいた企業の中では、Graffityが一番オファーしてから出資までに時間がかかりました。

森本:僕たちの方でも一番時間がかかりました。(笑)

田原:今後はどんな支援をしてほしいと考えていますか?

森本:金子さんはファイナンスに詳しいので、その点でサポートしていただきたいなと思っているのと、インフルエンサーとのつながりをたくさん持っていらっしゃるので、マーケティング面で協力してもらったりしたいと考えています。また、先輩経営者と若者のハブのような存在だと思っているので、色々とご紹介いただいて勉強したいなと考えています。

田原:今後とも頑張って行こうといった感じですかね、ありがとうございます。

3.Appleも注目!Graffity代表森本という男

田原:これまでの資金調達の状況を振り返って行きたいと思います。Graffityは2017年に設立されたのち、エンジェル投資家やアクセラレータなど18人の方から資金調達を行っています。East Venturesは今回ラウンドから参加しているということで、投資する際に何かエピソードなどありましたか?

金子:そうですね、森本さんはとても交渉が上手なので、苦戦しました。コミットしていた金額から1,000万円増額してくれということで、最後泣く泣くその条件を飲みました。

田原:経営者の方は皆さん交渉がうまいと思うのですが、森本さんは特別上手だったのですか?

金子:本当に25歳ですか?と疑うほど老練な交渉術を持っていました。

森本:ありがたいですね。一応日本のポーカー大会で優勝したりしていまして、交渉が元々好きなので、いざという時に決められたんだと思います。交渉には自信があります。

金子:交渉術以外にも、いくつもGraffityや森本さんには優れている点があると考えています。

一例として、僕自身もXR系の会社さんにはすごく興味があってたくさん投資していこうと調査しているのですが、あのAppleが日本のAR領域だとGraffityを特に推しています。

森本:3ヶ月間アメリカでプロダクトを作り、USのApp Storeにフィーチャーされたこともありました。

なぜAppleに推されているかというと、ARのマルチプレイという体験を世界で初めてスマートフォンアプリとしてローンチしたのが、僕らの会社だからです。かつ、しっかりとユーザー体験を重視しているという点でAppleの思想とも合致していました。

田原:ここまで絶賛されていますが、逆に金子さんから見て、森本さんの短所などはありますか?

金子:ずっと言うの我慢していたんですけど、早口すぎ!
今回ラジオ収録もしているのに、このスピードで話していたら聞いている人は何言ってるか分からないんじゃないですかね。(笑)

田原:普段は、もっと早口なんですか?

森本:昨日、ソフトバンクアカデミアという孫さんの後継者を育成するプレゼン大会がありまして、そこでオーディエンスのコメントのほとんどが内容自体のフィードバックではなく、「早口すぎる」との感想でした。(笑)
緊張もあって普段の2倍くらいのスピードで話してしまいました。

田原:遅いよりは、バンバン話していただいたほうがいいかもしれませんね。金子さんも早口の方ですか?

金子:いえ、僕はおっとりした性格なので(笑)、早口ではないと思います。でも確かに投資先の経営者は、早口の人が多い気がします。

森本:金子さんは、意思決定が早くて、行動を起こすのが早いんだと思います。

田原:スタートアップには欠かせない能力ですよね。
色々聞いてまいりましたが、そろそろまとめていきましょう。
森本さん、何か告知したいことなどはありますか?

森本:採用についてです。僕らは、ARバトルの領域でナンバーワンを目指しています。コンセプトとして重視しているのはコミュニケーションです。コミュニケーションの質こそが人間の豊かさに直結すると思っているので、ARという技術を活用して、その質の高いコミュニケーションを生むような、マルチプレイ特有のARバトル体験を追求しています。

僕らはARバトルとよんでいるのですが、ARバトルをグローバルに広めていきたいという僕らの想いに共感してくれるエンジニアやマーケターの方に来ていただきたいので、是非TwitterやWantedlyからご応募下さい。

また、これは起業家の方へのメッセージですが、AR領域のスタートアップが増えてほしいと思っているので、何か相談などありましたらお声がけ下さい。ARの分野では失敗も含め様々な経験をしてきたので、お役に立てることは多いかと思います。

田原:ありがとうございます。さあ、今日は資金調達の舞台裏ということで色々聞いてまいりましたが、本日はいかがでしたか?

金子:結構色々とぶっちゃけた話をしてしまいましたが(笑)、一つだけまだ話していない裏話があります。実はこの取材時点で、まだ資金調達が終わっていないみたいです。この記事が投稿されたということはおそらく着金が完了しているということだと思うので、お蔵入りにならないことを祈ります。(笑)

森本:がんばります。(笑)

田原:そうなっていると思いますので、楽しみにしております。
ありがとうございました。本日お越しいただいたのは、Graffityの森本さん、East Venturesの金子さんでした。

パーソナリティーは私、ビジネスタレントの田原でした。 「資金調達の舞台裏」次回も、お楽しみに!