いただいた命は社会貢献のためにイノベーションの土壌を生み出したい

2019.09.30

東京急行電鉄株式会社に入社後、MBAを取得。2015年に、東急グループとベンチャーとが事業共創する「東急アクセラレートプログラム」を立ち上げ、運営統括を務める加藤由将氏。東急グループとベンチャー企業を結ぶ自身の役割の醍醐味とは?これまでのマッチングの実績や協業する上で重視している点などについて伺った。

アクセラレーターとして東急グループとベンチャー企業を結ぶ

「東急アクセラレートプログラム(TAP)」の立ち上げの経緯を教えてください。

「東急アクセラレートプログラム」は、2015年にローンチした「スタートアップと共に、ワクワクドキドキする街づくりを」をコンセプトとしたプログラムです。

私は、東急電鉄に入社後、2008年に社内新規事業を立ち上げ、6年間ほどかけてなんとか事業を軌道に乗せ、後任に引き継ぎました。そのような経験をする中で、新規事業を連続して成功させるための再現性について、アカデミックにとらえたいと思いはじめました。

そこで、2012〜2013年に青山学院大学のビジネススクールに通い、MBAを取得しました。専攻はアントレプレナーでしたので、卒業後はまた一つの新規事業を作るという選択もありえましたが、もう一度ゼロから新規事業を作るとなると、軌道に乗せるまでにまた6年はかかってしまう。好奇心が強い私としては、様々な新規サービスにたくさん触れられるプラットフォームを作りの方が性に合っていると思ったのです。

多くのビジネスに関わるためには、バーティカル(垂直)ではなくて、ホリゾンタル(水平)な仕組みにする必要があると考えました。そこで思いついたのが、東急グループのさまざまなサービスオペレーションに、ベンチャー企業から先端の技術を取り入れるプラットフォームを作る役割になることでした。

様々な人に自分のやりたいことを説明して回る中、海外で「アクセラレーター」という仕組みと出会いました。海外のアクセラレーターも参考にしつつ、東急の文化に合うアクセラレーターの形を検討し、2014年に「東急アクセラレートプログラム(TAP)」を企画、2015年に正式にローンチしました。

立ち上げ当時の2014年の段階では、国内の事業会社でアクセラレーターを展開していたのは、デジタルガレージさん、KDDIさん、学研さんなどで、シードステージを中心とした支援プログラムがほとんどで、その次のステージで支援をするプログラムはありませんでした。

まずは、社内での理解を得るために、「会社としてアクセラレートプログラムをやります」というオーソライズを取るために、そもそもスタートアップとは?というところから説明をはじめました。毎日のように企画書を書き直し続けていました。

私は新規事業の立ち上げ経験があったので、起業家がどのタイミングでお金や人材がほしいのか、といったことがある程度肌感覚ではわかっていました。ですから、自分がシードを抜けたスタートアップだったらサポートしてほしい内容をそのままプログラムにしたのです。

カルチャーフィットさせるための「お見合い」を重視

支援がうまくいったベンチャー企業にはどういうところがありますか。

これから伸びていく事業がほとんどなので、自信を持って「うまくいった」と言えるところはまだありませんが、支援先をいくつかご紹介しますね。

1社目に投資をしたのは、リノべる株式会社さんです。

東急グループが、東急沿線の物件のリノベーションをするとなると、手間がかかりすぎて難しい。東急が一棟のビルを買い取って、リノベるさんにリノベーションしていただき、それを東急が分譲するということで協業しました。また、リノベるの事業の幅を広げるために、渋谷の神泉にあるビルを買い取り、ホステル&レストラン”Turn Table”も協業しました。

WAmazing株式会社さんとは、台湾・香港・中国からの旅行者が、スマートフォン向けアプリ「WAmazing」に会員登録をしていただくと、日本で通信可能なSIMカードを受け取れるサービスを東急が運営する仙台国際空港で展開しました。アプリから、OTA(オンライン・トラベル・エージェント)や観光チケット、EC販売などに連携していく予定です。

経営者の人柄は見ていますか?

かなり見ています。協業に重要なのはカルチャーフィットですから、組織のカルチャーのコアとなる経営チームは重要な存在です。

「東急アクセラレートプログラム」の中で、フィットするかどうかのマッチングをしている感じです。その後、打ち合わせを何度も繰り返し、「では、一緒にやっていきましょう」となればプログラムの最後のDemoDayで発表してもらって、PoCを通じてマーケットフィットを確認したら業務提携・出資という流れです。

人柄としては、真面目で愚直な人、「僕はこれがやりたい。社会のために必要なんです。」という人に共感を得ますね。いろんなシチュエーションで同じ体験をしてみないと人の内面はわかりません。上手くいくことなど稀で、コンフリクトが起きてストレスがかかった時に相手の本質が見える。膝を突きあわせてディスカッションして、お互いが進んでいける道を探せるかどうかが重要です。

また、「クリエイティビティは高いけれど、オペレーションに落とし込むのが不得意」というように、万能な経営者はいません。でも、完璧である必要はなくて、チーム内で巻き取ることができる人がいれば良いわけです。(後編に続く)