短期間で事業をスケールさせる秘訣。起業家は「成功のコンセプト」を実行できるか?(後編)

2019.09.30

楽天キャピタルの中の楽天ベンチャーズで、ベンチャー投資を行う都 虎吉さん。事業開発部門でM&Aを担当、その後楽天市場のマーケティング部のマネージャー経験などを経て、ひとりで楽天ベンチャーズの日本拠点を立ち上げた。前回に引き続き、現在の投資の際に重要視していることや、これまで成功に導いた企業についてお話を伺った。

5つの「成功のコンセプト」を実行できるか

これまでどんな企業に投資をされてきましたか?

法人向けの社食サービスを提供している株式会社OKANさんは、現在の日本で一番必要なサービスだと思って投資しました。ポテンシャルを感じたんです。

寿命が長くなるのならば、その分健康でいられる時間も長くする必要がありますよね。仕事をしながらきちんと食事をとることはすごく重要になるはずです。ぷち社食サービスの「オフィスおかん」は、食材の添加物を減らすなど、健康的なメニューの開発にも尽力しています。

また、新たに「ハイジ」というサービスもローンチしました。自身の健康状態、家庭との両立、同僚との関係、職場環境など、離職に繋がる要因であるハイジーンファクター( 衛生要因)を見える化するサーベイツールです。OKANの沢木社長は、実行力もあり、KPIや数字をきっちりと追える方です。社員相手にハイジーンファクターのサーベイをとって、従業員満足を図るなど、筋の通った経営をされています。

また、あらゆる業種・業態のビッグデータを、統合・活用・分析するマーケティングソリューションを提供しているフロムスクラッチさんも、ポテンシャルがあると思って投資させていただきました。

楽天は、今まであまりBtoBのクラウドサービスを提供してこなかったのですが、これからの時代、その市場が大きくなっていくのは明らかです。フロムスクラッチさんは、一見、マーケティングオートメーションビジネスに見えるのですが、サービスには会員データが蓄積されていて、データの活用方法が非常に勉強になると感じています。楽天にも、国内だけで1億人以上の登録ユーザーがいるので、使い方次第では大きなビジネスになりうると思いました。もちろん安部社長も、5つの「成功のコンセプト」を実行されている方ですね。

他に印象に残っている企業を教えてください。

インドネシアのライドシェアと物流に注力しているGOJEKさんは、成長スピードが速くて印象に残っています。2年間で20倍の規模にまで成長したことには、とても驚きました。

最初は、バイクタクシーのサービスでしたが、現在は、人だけではなく、あらゆる物やサービスを配送しています。これには、インドネシアの文化、交通状況が関係しています。ジャカルタ市内は人口が多く常に過密状態のため、車移動は難しい。そのため、バイクはとても便利なのです。物品や書類、料理、買い物、マッサージ師やヘアケア、ネイルケアの専門家などをGOJEKが持っているインフラ、つまりドライバーに乗せて、スピーディーに届けるのです。環境と需要をしっかりと見極めて行なっているこのサービスが、とても心に刺さりました。

スピードと情報共有が決め手

投資先企業はどのように見つけ、その後の支援をしているのでしょうか

イベントでの出会いや、投資家・投資先からの紹介もあります。また、オンラインメディアのwantedlyさんなどから得られる情報を参考にして、ご連絡することもあります。平均すると、週にだいたい5名ほどの起業家に会っていますが、もっと会った方がいいとも思っています。

以前は、投資先との関わりを小額投資のみに留めるスタイルもありましたが、現在は、投資をしてからも継続して支援をしていく、よりコミットするスタイルをとっています。

ハンズオンでもハンズオフでも支援の仕方はコミットできると思っています。ハンズオンだとビジネスプランを一緒に作る、プロダクトの開発などにかかわる、マーケティング戦略を一緒に練るといったアプローチをとり、ハンズオフの場合は、お客様の紹介や採用支援などを行っています。

投資家としての強みがあれば教えてください。

成功のコンセプトの一つであるスピードも意識していますが、僕自身は情報共有を最も大切にしています。

特に、失敗事例のシェアは重要です。共有会議では、これまでの成功事例のみならず、失敗事例も蓄積しています。特に、失敗事例の共有はとても重要だと思います。成功の理由が不明確な場合があっても、失敗の原因は明確ですよね。

また、グローバルの事例も共有しています。楽天では、グローバルマーケットに触れる機会が比較的多いので、海外のニュースで、投資先の起業家の心のどこかに留めて置いて欲しい情報を入手し際には、直接メールで内容を共有するようにしています。

日本で同じビジネスを展開したら競合になりそうな企業の情報なども必要に応じて伝えていますね。

また、財務状況やキャッシュについては細かく把握するようにしています。起業家の皆さんには、「気づいたら来月にはお金がなくなってしまう! なんてことは、ないようにしましょう」と伝え、少なくとも6ヶ月前からはカウントダウンしてもらっています。その数字が正確でなかったとしても、「今のペースで使っていくと6ヶ月後にはこうなります」ということを把握できているのは大切です。事前に伝えてもらえたら、対策を取ることができますので。

あとは、投資前も投資後も懇親の場を設けるなど、起業家とはフランクな付き合いを心がけています。隠し事はしません。もちろん伝え方は工夫していますけれど。でも最近は、皆さんがすごく忙しくて、遊んでもらえないですね(笑)

好きなベンチャー投資を貫徹したい

今後はどんな企業をウォッチしていきたいですか?

引き続き、楽天の事業と関連性のある企業を見ていきます。

例えば、まさに楽天が展開しようとしている分野、ヘルスケアなどはいいかもしれません。また、楽天モバイルで、キャリアビジネスもローンチしますので、そこに付加価値を生み出せるような事業にも関心があります。IoTやコンテンツビジネスも気になります。

また、法人向けのエンタープライズソフトウェアも好きなので、ウォッチしていきたいです。とはいえ、アメリカほど大きなビジネスにはなっていないので、うまく市場を作っていきたいと考えています。

今後チャレンジしてみたいことはありますか?

これからも今のベンチャー投資の仕事を続けていきたいです。この仕事が好きなので。特にコンシューマー向けのビジネスにおいて付加価値を生み出せる企業さんを見つけ、サポートしていきたいと思っています。投資やスタートアップ企業のネットワークを使い、投資先の企業の成長につなげたいです。

個人的には、BtoCのロボティクス、人間の生活が豊かになるようなビジネスに投資したいという想いがあります。人間は、ロボットに任せられる仕事は任せていくことで、苦しさ排除し、もっと好きな仕事をしたりおいしいものを食べたりすることに時間を充てて、より豊かに暮らしていけるといいですよね。実際に、そのような世の中が来るんじゃないかなと思っています。そういう意味で、コンテンツ、エンタメ、ロボティクスなどに注目していきたいです。