元ピッキング職人が投資家へ転身。成功の鍵を作りたい。

2019.09.19

「成長するスタートアップに特徴なんてないんですよ」と語るコロプラネクストの中島 徹也(なかしま てつや)さん。ファーストキャリアとして選んだのは、今では珍しい鍵師という職業。鍵師として経験を積んだ後に、インキュベーション施設「MONO」のインキュベーションマネージャーを務め、数多くの起業家の支援に携わる。現在は、コロプラネクストのインベストメントマネージャーとして国内投資案件を中心に担当している。今回のインタビューでは、そんな異色のキャリアを歩んできた注目の若手投資家、中島さんの素顔に迫った。

「どんなことでもサポートしたい」という気持ちでスタートアップ支援

株式会社コロプラネクストで投資家として活躍する中島さんですが、現在担当されている業務について教えてください。

IT領域全般に幅広く全世界へ投資をさせて頂いてます。弊社の場合、投資ステージはシードからレイターシードの企業まで、投資レンジを広く設定していますが、ソーシングから投資後のサポートまで伴走することも多いです。。ですので、僕自身も様々な業種の起業家の方にお会いして最適なファイナンスの提案や事業計画の作成のアドバイスをさせて頂いたり、成長の過程で必要な人材の紹介などをしています。

僕の場合、投資先から支援を要望された際は、どんなことでもサポートする気持ちで仕事をしています。ただ、投資先企業のフェーズも様々なので、投資先から求められるサポートの幅も多岐に渡ります。そのため、ある会社のファイナンス支援が終わったら、次は別の会社の事業戦略を考えたりと、投資先のフェーズや状況によって業務内容も大きく変わってきます。最近だと、僕自身がデットのファイナンス領域を得意としているのもあって、エクイティでのファイナンスと合わせてサポートさせて頂くことが多いですね。

キャリアのスタートは鍵師

中島さんのファーストキャリアは鍵師だと伺いました。中島さんが鍵師を辞めて起業家支援をするようになった経緯について聞かせてください。

僕のファーストキャリアは鍵師なんです。昔からものづくりや細かい作業が大好きな性格だったので、鍵師の仕事は自分に向いていると思ったんです。また、早く社会に出て手に職をつけることに重きを置いていたことも鍵師になった理由の一つです。

実際に鍵師になってからは、僕が一般の家庭や企業へピッキングをしに行っていました。順調に鍵師としてのキャリアを積んでいた中、友人から飲食店の開業支援をお願いされたことがきっかけで鍵師の仕事を続けながら飲食店を始めることになりました。それからしばらく友人と二人三脚で頑張っていたのですが、その飲食店は売り上げが伸ばすことができずに潰れてしまったんです。この時に、一緒に成功を遂げることが出来なかった友人への申し訳なさと同時に「どのように起業支援をしたら事業がうまくいくのか」に関心を抱くようになりました。

そして、順調に築いていた鍵師としてのキャリアから一転、ハードウェアスタートアップ向けのコワーキングスペース「MONO」の運営に携わることになりました。鍵師としての仕事で習得した工具を扱うスキルはハードウェア開発にも応用ができるため、これまでの自分の経験を活かして起業支援の場で活躍できると考えたんです。

「MONO」では、最初は工作室専門担当者としてハードウェアスタートアップを支援していましたが、徐々に起業家支援全般を担うようになっていきました。施設の運営や起業家支援を通じて、数年で100社以上のスタートアップと関わりました。その中で、順調に成長していくスタートアップ、事業の撤退を余儀なくされるスタートアップも含めて、様々なリアルな現場に立会ってきました。このように、投資家ではないフラットな視線でスタートアップ成否の事例をノウハウとして蓄積できたことは僕のキャリアの中でも大きな財産になりました。

新天地では、同世代からの刺激が投資家としての成長に

さらなる活躍の場を求めて「MONO」を退職した後、株式会社コロプラネクストに転職された中島さんですが、同社でもコワーキングスペースを運営されたんですよね。

コロプラネクストへは渋谷にある「TheRoots」というワーキングスペースのコミュニティーマネージャーのポジションで入社しました。「TheRoots」はコロプラネクストの投資先の学生起業家が自社のオフィスを持つまでの間、無料で利用できるインキュベーション施設です。

私はその施設に常駐しながら学生起業家の支援を担当していました。常駐していたこともあり、施設を利用している学生起業家とは一緒に暮らしているような感覚に近かったですね。また、当時は投資家としては駆け出しの頃だったので、若い起業家の皆さんと一緒に課題解決の手段を考える傍ら、先輩の投資担当者の仕事を近くで見ながら僕自身も必死に勉強していました。

その一方で、開発するサービスがお客さんに受け入れられるかどうかをどのような方法で確認するかという点においては、口出しをするようにしています。例えば、サービスを完成させてローンチするまでお客さんの反応がわからない場合、開発に費やした時間とコストが無駄になってしまうかもしれません。もし、ユーザーに受け入れられるかどうかを早い段階で確認できたら、その分不安も軽減され、社員のモチベーションも上がります。その点から、どうすればお客さんの反応を確認できるかをスタートアップと一緒に考えています。

「TheRoots」では数十社のスタートアップを支援させて頂きました。先日、エン・ジャパンに買収された「JapanWork」やエイベックスに買収された「MAKEY」等の「TheRoots」入居企業の皆さんの姿は非常に印象に残っています。MAKEY、JapanWorkの2社は、結果的にではありますが、我々がご紹介した会社による買収時のファイナンスをお手伝いさせて頂き、そういったこともあり急成長するスタートアップを間近で見届けてきました。

「MAKEY(メイキー)」の社長をはじめ、年の近い学生起業家から刺激を受けられる環境で彼らと一緒に仕事ができたことで、投資家としての成長にも直結しましたね。

一人の経営者であることが、スタートアップ支援にプラスの効果

これまで数多くのスタートアップの成長支援に携わっている中島さんですが、投資家としてスタートアップをサポートする際に発揮できるご自身の強みについて教えてください。

僕がスタートアップの成長支援をする際に発揮できる強みは大きく2つあります。まず、デットファイナンスのサポートには自信があります。「MONO」に在籍していた頃、江東区特定創業支援等事業として、「MONO」に入居するスタートアップや起業家志望の方々を対象にデットファイナンスや補助金などの財務、経営や人材関するセミナーを開催していました。会計士や中小企業診断士をはじめとする士業の方と一緒に、配布用の教材作成やセミナーの企画を考えていたこともあって、自然とノウハウが溜まっていったんです。また、セミナーには銀行の融資担当の方も多数いらっしゃったので、僕自身のネットワークの拡大にも繋がりました。投資家になった現在でも、セミナーで知り合った融資担当の方にスタートアップをご紹介させて頂くことも多いです。また、起業家の方と一緒に書類を準備して銀行を回ったりもするので、デットファイナンスに関して不安があるのであれば是非僕のことを頼っていただけると嬉しいですね。

2つ目に、僕自身が現在進行形で個人事業主として活動していることも強みです。ハードウェアを作っている会社で、2メートルのゲーム用巨大コントローラーを作ったりしています。今でもものづくりが好きなので、その領域で自身の事業も展開しています。事業の予実管理、キャッシュフロー予測や原価計算なども抜かりなくカバーして、黒字を出すように経営しています。ですので、起業家に近い立場で寄り添えたり、抱える悩みに対して共感できるので、一人の経営者として個人事業を運営することが投資家業務にプラスの影響を与えていると思います。

当たり前のことを当たり前にやる難しさ

これまで数多くのスタートアップをみてきた中島さんが思う成長するスタートアップ・失敗するスタートアップの特徴を教えてください。

成長するスタートアップの特徴をあげるのは難しいですね。市場の動きは限りなく流動的なので、良いサービスでも展開するタイミングが成否を分けるケースがたくさんあるからです。ただ、その一方で失敗するスタートアップには特徴があると考えています。個人的な意見として、伸び悩んだり失敗するスタートアップは、防げる部分を防げていないことが多いと感じます。だから、失敗しないために個々の会社ごとに「ここは最低限気をつけましょう!」というポイントをアドバイスさせていただくことはあります。

例えば、シード期のスタートアップによくある失敗例として、事業開発に集中しすぎて重要なKPIを定められていないということがあります。KPIを明確に定めて、そこに向かって何ができるかまで考えないと、定量的な目標がない状態で走るので伸び悩んで来た際に問題がわからないということになりがちです。また、組織面でのトラブルもよく見られます。小規模な組織だとたとえ優秀でも会社にあわない人が1人入るだけで崩壊するなんてこともあります。スタートアップはただでさえリソースが限られているので組織は重要です。

計画通りに成長するには、自社の置かれている状況を客観的に捉えつつ、限られたリソースをいかにフル活用できるかが勝負だと思います。当たり前のことを当たり前にやるというのはスタートアップにとって難しいところだとは思いますが、やはり基本的なところが重要なのではないでしょうか。また、失敗も致命的なものでなければそれは経験値として活かせるものなので失敗を糧に成長できる起業家は強いですね。

起業家の皆さんには幸せになってほしい

最後に起業家の方へメッセージをお願いします。

僕は投資家としては、リターンを出すことを念頭にしっかりと人と会社を見させていただき投資を実行しています。ただ、私個人は一人の経営者でもあるので、投資をするしないに拘らず、起業家皆さんに幸せになってほしいと思っていますし、事業領域に関わらず気軽に相談に来てほしいです。

僕自身は個人事業主としての活動も楽しんでいますが、自分がリーダーシップを発揮するよりも、誰かを助ける方にやりがいを感じます。投資させていただいてる会社や応援している起業家が世間から評価されるのが好きで、よくサービス名でSNS検索したりしているんですがポジティブな反応があると自分のことのように嬉しく思ってます。そういった性格なので「頼られる」ということは大好きです。「経営者は孤独」とよく言われますが、孤独でいいことはないと思うので真剣なご相談も気軽なご相談も含めて、気軽に僕を頼っていただける嬉しいです。