10年やり抜けるか。「時間を投資する」エンジェルの挑戦。(後編)

2019.08.07

慶應大学SFC在学中にスタートアップの世界に傾倒し、起業を経験。同大学卒業後は、ユニリーバ・ジャパンへ新卒入社後、個人レッスンのマーケットプレース「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッドを創業。2013年に同事業をクックパッドへ売却後、2016年2月に同社の社長を退任。その後、エンジェル投資家として国内外のスタートアップの経営支援を始める。投資先はマネーフォワード、キャディ、OLTA、レンティオ、Azoop、Kanmu、MaterialWorld、WAmazing等、日米約70社。 

シード投資家として成果を残し続け、スタートアップ業界の多方面から注目を浴びる有安さん。前回に続き、「時間を投資する、というエンジェル投資家の新しいコミットの仕方」から「最近、創業して数年の異例のスピードで大型資金調達に成功したスタートアップ」まで、スタートアップのリアルな現場についてお話を伺った。

クラウドファクタリングサービスを提供するOLTAへ投資

もう1社はどちらへ投資をされたのでしょうか。

2社目は、OLTA株式会社という、オンライン上の手続きのみで売掛金(≒請求書)を売却できるファクタリングサービスを提供するスタートアップです。ファクタリングというのは、企業が保有している債権(売掛金)をファクターと呼ばれる債権回収業者に買い取ってもらうことで、運転資金が不足する期間をピンポイントで補う資金調達の手段として注目されてます。

課題解決の可能性を秘めたシンプルで洗練されたサービス

同社は創業半年にして、5億円の調達に成功したと伺いました。こちらの経緯を教えてください。

OLTAと(前編記事で触れた)Azoopの両方に共通して言えることですが、「市場選定の秀逸さ」と「経営者の覚悟」のフィッティングが素晴らしかった。
OLTAの創業者の澤岻(たくし)さんとは、会社の法人登記前の時期に初めてお会いしました。USと比較して国内のファクタリング市場がまだ完全に黎明期だということにまず大きなチャンスを感じました。また、足元のニーズとしても、中小企業や大手の下請け企業など、一般的に立場の弱い企業の資金調達ニーズの大きさにも可能性を感じましたね。

例えば、「すでに融資を受けていて、追加融資や他の金融機関からの融資が難しいため、手元のキャッシュがショートしている」状況だと、中小企業が選択できる資金調達の手段がほとんどなくなってしまいます。さらには、2社間ファクタリングの際に発生する手数料が高額になり、ファクタリングを利用できないといったケースもあります。こういった中小企業の抱える資金調達の課題が未だ残り続ける中で、ファクタリングは、短期の資金繰りに悩む企業の資金調達ニーズを十分に吸収できる可能性を秘めています。

また、OLTAが提供するクラウドファクタリングサービスのビジネスモデルは、短期の資金調達に悩む企業の視点を考慮して設計された非常にシンプルで理解しやすいものでした。

と、言うような感じで、日本では馴染みの薄いファクタリングという領域にフォーカスした「市場選択」の良さが決め手で、投資を決断しました。

広範な支援でシリーズAまで伴走

OLTA株式会社やAzoop株式会社は記録的な速さで億単位の資金調達に成功したと思うのですが、投資先のスタートアップにはどういったサポートをしているのでしょうか。

投資の仕方やサポートに関しては投資家によって考え方が大きく異なります。少額を様々なスタートアップに投資をする投資家や、大きな額を投資して経営に深く関与しながらサポートする投資家など、様々なタイプの投資家がいます。私の場合、シリーズAまでスタートアップに伴走することでバリューが出ると考えているので、5%〜10%の株式をもらう代わりに、資本政策のストーリー構築から、起業家のVC回りの同伴まで、広範なサポートを行う、というのが一番ガッツリサポートするパターンです。もちろん、0.5%〜数%だけ出資する普通のエンジェル的な普通のサポートの出資先もたくさんあります。

他にも、「自分が起業家ならどんなサポートが欲しいか」という視点で常に考えていますが、サポートをするタイミングは「投資先から助けを求められた時」まで我慢するようにしています。あくまで事業の主役は起業家自身なので、立ち振る舞いや自分の立ち位置は意識するようにしています。

マーケット、ユーザーへのインパクトを重視した挑戦に向け

最後に今後の目標について教えてください。

新しいことを始めようと思うと、恐怖を感じたり億劫になったりもしますが、20代の投資家のような気持ちで、自分の知らないことに貪欲に挑戦していきたいと思います。起業家は誰しもがそうだと思うのですが、何らかの刺激がないと辛くなってしまう。「頑張ったら世界一になれる」領域やジャンル、アングルを選びとって「自分にしかできないこと」「自分らしい仕事」を追求していければと思います。

また、最近ではエンジェル投資家の数が増えて、スタートアップの活性化という意味では良い状況になっています。私自身の考え方として、みんながやっているものに、混んできた領域に対しては徐々に興味なくなっていくので「エンジェル投資だけじゃなくて、面白いことはなんでもやる!」という気持ちを持っています。挑戦するときは、新しく起業するのか、投資家として新しい投資スキームを考えるのかではなく、「マーケットやユーザーに対してどういったインパクトを与えられるのか」を重視して進む先を決めていきたいですね。