欲望がスタートアップの原動力、今の自分はシンプルに承認欲求を満たしたい。
大手メーカー退職後に創業したベンチャー「岩淵技術商事株式会社」にて様々な企業の新規事業に関わるほか、IoTスタートアップのためのシェアファクトリーである「DMM.make AKIBA」や筑波大学が様々な大学と共催する次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)の運営に携わる岡島 康憲 (おかじま やすのり)氏。今回はアクセラレーターとして数多くのスタートアップの成長をみとどけてきた岡島さんに仕事にかける想いを伺った。
目次
原動力、欲求に忠実なスタートアップに惹かれる
どんなスタートアップに魅力を感じますか。
自分の原動力や根本的な欲求に忠実なスタートアップは魅力的だと思います。やりたいことや自社の将来像を言語化できていて、ミッションの実現に向けて本気で挑戦しているスタートアップは「何か凄いことをやってくれるかも」という期待が持てます。
原動力や欲求に忠実なスタートアップが魅力的な理由は、デバイスの話を例に取るとわかりやすいと思います。
例えば、「会話の中で自分の本心を代弁してくれる」機能の付いたデバイスを開発するとして、同じ機能のサービスでも作る人によって「なぜ作りたいのか」が変わってくると考えています。
ある人は、自分では周囲の目を気にして本心が言えないので代わりに本心を言ってくれるデバイスを作ろうと思い、また別の人は自分の本心がわからないから言語化をしてもらうためにデバイスを作ろうと決意したとします。この二つの例は、開発に至るまでのプロセスは違いますが、自分の中の根本的な欲求は共に明確な状態です。この状態で、仮に技術的に無理が生じて開発途中で事業が頓挫してしまったとしても、デバイスに拘るのではなく「自分の本心が言えるようなwebサービスを開発しよう」「気づいていない自分の本心を言語化してくれるwebサービスを開発しよう」という具合に、自分の欲望から逸れずにピボット(方向転換)することができます。
一方で、根本的な欲求や事業への原動力がなければ、ピボットできずに諦めてしまったり、無策な資金調達に走ってしまう可能性が高くなります。そう言った理由もあり、なぜその事業をやるのかという根本的な欲求や原動力に日々向き合っているスタートアップは簡単には諦めない底力を持っているので魅力的だと思います。
原動力と手段のリンクはできているか
成長するスタートアップにはどんな特徴がありますか。
先ほどのお話と関連する部分もあるのですが、原動力とそれを実現するための手段がリンクしているスタートアップは成長すると思います。
実際の手段というのは、ハードウェアを使って実現するのか、webサービスを使って実現するのかなど、原動力に紐づく解決したい課題によって変わってきます。
ただ、事業を推進していく過程で自分自身の原動力に目を向ける機会が減ってしまい、進むべき方向性が分からなくなることも多いのが現状です。原動力と手段のリンクが切れてしまうと、他の社員との間に溝ができてしまったり、同じベクトルを向いて進むことが難しくなり、成長が鈍化する可能性が高くなります。「自分はなぜこの事業をやっているのか」、「この事業で誰をどういう状態にしたいのか」という自分への問いかけを日々続けることで、原動力と今現在取るべき手段をリンクさせていくこと。それに加えて、事業を進める過程で譲れないところは、なぜ譲れないのかを明確にすることで原動力を研ぎすませていき、不安な部分はビジネスキャンバスなどのメソッドを使って可視化することで成長を加速できると考えています。
勝率は低くても、絶対に否定しない
岡島さんのスタートアップへの向き合い方を教えてください。
どのようなサポートをしたら、スタートアップがいかに早く試行錯誤できるかという視点で考えています。「こういう考え方もありますよ」、「こんな人紹介できますよ」というサポートだけではなく、具体的に「もっとこういう部分を工夫すれば、そのチャレンジって実現できますよね」という視点で向き合うことで、いち早くトライ&エラーを繰り返せる環境作りに取り組んでいます。
大切なことは、たとえ勝率が低くてもスタートアップのやりたいことを否定するのではなく、「やりたいことを実現するためにはどのような情報を提供すべきか」を常に考えることであり、成長可能性を広げるコミュニケーションを行うことだと考えています。なので、その事業が成功するかしないかという点においては口出しをしないようにしています。
その一方で、開発するサービスがお客さんに受け入れられるかどうかをどのような方法で確認するかという点においては、口出しをするようにしています。例えば、サービスを完成させてローンチするまでお客さんの反応がわからない場合、開発に費やした時間とコストが無駄になってしまうかもしれません。もし、ユーザーに受け入れられるかどうかを早い段階で確認できたら、その分不安も軽減され、社員のモチベーションも上がります。その点から、どうすればお客さんの反応を確認できるかをスタートアップと一緒に考えています。
また、事業がビジネスになるのかという観点で、小さな売上を作るための試行錯誤についてもサポートをしています。もし、サービスを必要とする人が多く、小さな売上を積み重ねることができれば、そのサービスがお客さんから求められているということになるので、サービスとしての評価も高くなります。小さな売上、顧客との小さなコミュニケーションの積み重ねがスタートアップの成長に重要だと考えています。
スタートアップに、見たことのない景色を
岡島さん自身、今後どのように成長をしていきたいですか。
今後は、世の中に存在するスタートアップの様々な原動力や課題、それに対する解決策に関する知見を増やしていきたいです。こういった知見をスタートアップに還元することで、課題解決や試行錯誤のスピードをかそくさせることができると考えています。
例えば、同じような原動力を持っているスタートアップがどのような手段で課題解決に取り組んでいるかを情報提供できれば、その情報から原動力や手段を見つめ直したり、似たような原動力でも違った形でのアプローチの仕方を共有できるので、考え方や手段のバリュエーションが大きく広がると思います。
また、世の中には自分の原動力を諦めている人が多いと感じています。「こんな風に生きていきたい」、「こんな自分になりたい」という欲求やそのための原動力は各々が持っていると思います。それなのに、自分の原動力や欲求に正直になれないのは、原動力について考える機会が少なく、うまく言語化できていないことが原因だと考えています。自分自身の原動力を振り返ると、私はシンプルに自分の承認欲求を満たしたい。だから周りの人から「岡島さん凄いです!さすが岡島さん!」って言われたいと思っています。周囲のスタートアップからこの様な言葉をいただくためには、スタートアップが見ていない景色、知り得ない情報をインプットすることで価値提供をしていく必要性があります。そのための努力は惜しまないですし、自分の欲望に忠実に生きたいという私の原動力を胸に今後も成長していけたらと考えています。