勝つために考え抜き、逆境を超えてきた。No1を目指し決断した、M&Aという選択肢。

2019.06.26

株式会社ライボを創業し、キャリアや転職に特化した匿名相談サービス「JobQ」を開発・運営する小谷 匠氏。買収を経て現在は、パーソルグループで手腕を振るっている。業界No.1を目指す小谷氏は、どのような歩みを経て今に至るのか。今後の事業や投資のビジョンに至るまで、話を聞いた。 

パートナーの離脱、資金調達の失敗、苦労を重ねた創業期

これまでのご経験の中で、大変だったことを教えてください。

2015年2月に、当時のパートナーと2人でライボを共同起業しました。
創業時に、キャリアや転職に特化して匿名で相談できるサービス「JobQ」を開発し、運営をスタートします。

その後も「JobQ」の運営に注力しながら、資金調達に動き出します。ただ、調達が目前に迫ったところで、パートナーとの解散の話がではじめました。

結局、パートナーとは解散してしまい、さらには資金調達もうまくいかず資金がつきて、キャッシュアウトも経験しました。いったん自分の給料の支払いを止めて、個人の貯金を少し入れてしのがざるを得ませんでした。

その後、再度資金調達に動き、最終的には株主であったCAV/株式会社サイバーエージェント・ベンチャーズ(現CAC/株式会社サイバーエージェント・キャピタル)のフォローオンや借り入れによって、数千万円の資金を集めることができました。

競合分析から、サービスを磨く

逆境からどのように回復していったのでしょうか。

もともと負けず嫌いな性格でしたので、途中で投げ出して諦めてしまうのはダサいなとも思い、負けん気で踏ん張りました。

「JobQ」は、CGM(Consumer Generated Media)なので、ユーザー投稿によってコンテンツを集めていかねばなりません。クックパッドやアットコスメ、食べログを思い浮かべていただけるとわかりやすいかと思います。ユーザーを集め、投稿してもらうことによってコンテンツを作らないといけないのですが、そもそもコンテンツがなければユーザーも集まってこないのです。

そのため、スタート当初は、コンテンツを増やすことに注力していました。ただ、サービスを運営する過程で、鶏が先か、卵が先かという問題に陥ってしまい、試行錯誤の末に2017年からはユーザーの確保に力を入れることへ切り替えました。具体的には、「JobQ」は、SEOと非常に相性がよいということに気付いたので、SEOに力を入れたのです。検索エンジン経由での流入が増えるとともに投稿コンテンツも増加し、その投稿コンテンツに対してさらにユーザーが集まる、という正のサイクルが回り始めました。

あとは、どのように競合サイトに勝つかについてもずっと検討していました。

「JobQ」の競合は、国内に数サイトあります。その全てが上場企業が運営しているか、または出資をしています。サービスリリース時期についても、「JobQ」は、2015年スタートなので、もっともスタートの早いサービスとは8年間の差がありました。CGM型のサービスは、早くはじめるほどメディアが充実していくので有利です。この8年の積み重ねの差をどうやって埋めるのか、常に考え続けてきました。

「JobQ」は、スマホ普及後のリリースということが強みなので、初期段階からスマホ最適に力を入れました。テキスト型で一方通行のコンテンツではなく、Q&Aやチャット形式のインタラクティブなコンテンツや、画像や動画コンテンツを作るなど、「スマホならではの仕様にして、どうやって勝つか」を考え抜きました。

上述のような試行錯誤を繰り返した期間を経て、次第にサービスが軌道に乗っていきました。投資対KPIが把握できるようになり、いくら投入したらどう伸びるかがある程度見えてきて、再現性がつかめるようになったのです。

M&AかIPOか? M&Aを選択した理由

M&Aを行うと、IPOが遠のくので大きな決断ですよね。

また、競合を分析するとなかなか単独で運営し続けるのは、コスト面で厳しそうということも見えていました。さらに、オリンピック後のリセッション(景気後退)による打撃をHR業界全体が受けてしまう可能性もあります。成長局面を迎えている事業だからこそ、グループ入りすることで外部環境の変化にも耐えられる経営をしたいという思いもありました。僕は、No.1にならないと意味がないと思っています。No.1が利益の大半を得ると考えているためです。そういう意味では、M&AはNo.1への道をショートカットできる方法として、選択肢のひとつだと考えていました。

現在は、グループ内の予算を投入しながら、グループとしてデータの統合や営業網の活用などをおこなうことでよりスピードを上げて事業推進しています。。

M&Aの決定はどのタイミングで社員に伝えたのですか。また、どのような反応がありましたか。

現在は、約20名のメンバーで動いています。社員には、M&Aの話がほぼ決まったタイミングで伝えました。実際に伝えた際には、喜んでくれた社員が多く、少し戸惑っていた社員もいたのですが、僕自身の想いをしっかりと伝えることで理解していただけたと思います。

自社の事業を軸にしながら、投資案件を検討したい

今後はこれまでの経験を活かしてエンジェル投資家としての活動にも力を入れていくのですか。

機会があれば、エンジェル投資家としてスタートアップをご支援したいと思っています。自分の事業が主ではあるので、積極的に行っていくつもりはありませんが、力になれることがあれば前向きに検討したいです。

BtoCのサービス、例えば、コミュニティやメディア、コマース、CtoCなどはお手伝いしていきたいと思います。

マーケティングやプロダクト設計について、経営とのバランス、マネタイズのタイミング、必要な資本とリターンの予測などについての感覚値はあると思います。

投資先として、どんな業種がマッチすると思いますか。

投資する視点は2点です。1つ目は、自分の勉強になる業界であること、2つ目は、僕が入り込むことでバリューアップできることです。

興味のある分野は、僕がエンジニア出身ということもあるので、ブロックチェーン、画像認識などディープラーニングやAI、IoTといった分野です。

また、投稿サービスをやっているからこそ、見えてくる点もあり、いまはセンシングやIoT周りの技術が非常に伸びてきており、投稿する気がなくても投稿されているくらいの気軽なサービスにしていくことがベストでしょう。例えば、Fitbitは投稿する気がなくても、脈や呼吸などがトラッキングされていてログに残っている。こういう感覚がいいなと思っています。

これから起業する人にメッセージをお願いします。

強い意志を持って、続けることだと思います。

起業するといろんなことが起きますが、「うまくいくまで絶対に諦めない」と覚悟を決めている起業家は強いと思います。今後は、そんな強い覚悟を持った起業家を支援することができればと考えています。