生きるか死ぬか、減る預金残高の恐怖。逆境を超えた投資家の証言(後編)
新卒で入社したフューチャーベンチャーキャピタル株式会社では、地方の多種多様なベンチャー企業への投資を経験。その後に転職した株式会社インフォネットでは、前職からは一転し、組織を内部から支えるバックオフィス業務全般を社長直下で担う。前回に引き続き、投資家、ベンチャー企業のプレイヤーとしての経験を活かして、現在は再び投資家として活躍する森 雅和(もり まさかず)さんに、これまでのキャリアからベンチャー投資のリアルな現場についてお話を伺った。
目次
再びVCとして、再出発を切る
株式会社インフォネット退職後、株式会社ウィルグループで再び投資家としてのキャリアを選択したのは、どのような経緯があったのでしょうか。
株式会社インフォネットでは、8年間に渡り自分の持てる能力や時間の全てを捧げて、会社の成長に向き合ってきました。ただ、30代後半を迎え、もう一度キャリアを見つめ直した時に、今までの経験を活かして「自分の判断や行動が社会を変えるような、もっとワクワクする仕事がしたい」という想いが強くなりました。8年間を共にした会社の現状と自分自身の役割や立場を顧みると、自分の未来がなんとなく想像できてしまい、このまま現状維持を続けることに危機感を抱くようになったのです。最終的にはこの危機感が決断を後押しする形で、転職活動を始めました。
また、転職に際して、投資家としてベンチャー支援のプロを目指すべきか、バックオフィスでの経験を活かしてCFOとしてのキャリアを歩むべきかで相当悩んだ末に、再び投資家としてウィルグループへ入社を決めました。
この決断の裏には、ウィルグループとファーストキャリアでお世話になったフューチャーベンチャーキャピタルが共同でファンドを作っていたことが関係しています。経営陣の人となりもよく知っている会社と協業関係にあるウィルグループなら価値観が合いそうだと感じましたし、自分のこれまでの経験や人脈をより活かせるのではと考え入社を決めました。
事業の社会性と経営者の2点で投資判断
現在は、再び投資家として活躍をされている森さんですが、ベンチャー企業へ投資をする際に注目するポイントについて教えてください。
事業の社会性と経営者の2点を見ています。「漠然と投資をして、たまたま儲かりました」ではつまらないので、投資先が成長した先で市場や人に対してどのくらいインパクトを与えられるのかをまず考えるようにしています。
例えば、「RESVO」という統合失調症を始めとする精神疾患領域での課題解決を目指してるベンチャー企業に投資させて頂いているのですが、社会へのインパクトという面では、とても魅力的な会社です。統合失調症は、生まれてきた時には症状がでず、思春期になってから発生するケースが多いと言われています。統合失調症は経過の長い慢性疾患のため、治すためには家族のサポートを必要とします。また、意外と知られていませんが、統合失調症の患者数は喘息の患者数と同じくらいいると言われています。
このような解決が困難と言われる分野に挑戦する「RESVO」という会社は、統合失調症のリスクがあるかどうかが生まれた段階でわかる検査キットの開発と、発症してしまった際の改善プログラムの開発を平行して行なっています。「RESVO」の事業が描く未来が実現すれば、統合失調症や精神疾患への向き合い方も大きく変わるので、社会や人の暮らしに与えるインパクトは計り知れません。
また、経営者の部分に関しては、人を頼りにしすぎずに自分で事業を作り推進できるかどうかが重要だと考えています。もう少し具体的に説明すると、「プロダクトを自ら開発できる能力」、「周りの人を巻き込みながら事業を推進できる能力」、「事業に内在するリスクを把握できる能力」を持ち合わせている経営者は魅力的です。そういった、能力が高くて、自分よりも優秀だなと思えるような投資家に出会い、そして投資をするために、活動範囲を広く設定してアクティブに活動するようにしています。
教科書的なサポートに加え、ベンチャー現場のカオスを共有
これまでのキャリアで築いてきた森さんの独自の強みを、どのようにベンチャー企業支援へ活かしているのでしょうか。
投資家としてだけでなく、8年間ベンチャー企業で働いていた経験もあるので、2つの視点からベンチャー企業を俯瞰的にサポートできるのが私の強みです。特に社長直下でコーポレート機能全般を担うポジションで実際に働いていたので、ベンチャー企業の経営者が日々考えていることや悩むポイントもだいたい理解できます。教科書的なサポートだけではなく、ベンチャー現場のカオス感を共有しながらフォローしていきたいと考えています。
また、立場が異なるため利害が一致しないケースもありますが、「このプランであればお互いの目的が達成できそう」とか「お互いこの部分までなら妥協できますよね?」という全体最適の提案ができるのも、投資家、ベンチャーの両方を経験して得ることのできたスキルだと思います。
自分のリソースの全てをベンチャー企業のために
最後に森さんの今後の目標について教えてください。
正直なところ、投資家としてのキャリアを歩むべきか、CFOとして1つのベンチャー企業に時間を捧げるべきか、悩むこともあります。またベンチャー企業の現場から遠ざかることで、現場でしか得られない感覚が薄れていくので、そういった危機感も感じています。ストーリー性のある会話や、自分の原体験をもとにしたアドバイスは人を惹きつける力があります。だから時には「ベンチャー経営の当事者だったらどう考えるのか?」も意識して仕事に取り組んでいます。
このように悩むことも多いですが、今は投資家として目の前のベンチャー企業の経営者に一番近い位置で寄り添い、投資先の成長のために自分のリソースを余すことなく注ぎこみたいと考えています。その先で、ベンチャー企業に自分の経験やノウハウを提供することで投資先の社会貢献性の高い事業を成功に導ける、そんな投資家を目指したいです。