「根無し草」だからたどり着いたベンチャー投資。ジレンマを理解し、超えていく。(後編)
自身を「根無し草」と形容する朝日メディアラボベンチャーズ・投資担当ディレクターの山田正美(やまだ まさみ)さん。中央大学の電気電子工学科を卒業後、2001年に朝日新聞社へ理系採用の新卒エンジニアとして入社する。同社では、新聞の印刷工場での新聞印刷に7年間携わったのち、希望していたインターネット関連の事業部へ異動。現在は、投資担当ディレクターとして、スタートアップ投資・育成を主戦場に活躍されている。前回に続き、山田さんのスタートアップや投資にかける想いについて伺った。
目次
勉強熱心な「根無し草」だから、環境が変わっても頑張れた
工場勤務、エンジニア、スタートアップ支援と多様なキャリアを経験されてきた山田さんですが、それぞれの部署で活躍できた要因はどこにあると考えていますか。
僕は、自分自身のことを「根無し草」のような人間だと思っています。もともと、新しいことを学ぶのが好きな勉強熱心な一面があるので、環境が変わっても、そこで頑張ってみます。もちろん、新しいことに挑戦するので失敗もよくします。
工場勤務から「なんちゃってエンジニア」、スタートアップ投資と畑の違う領域で、ひとつの職種にこだわらずにやってきて、それぞれの場面で柔軟に学んできたので、今の仕事ができてると思います。
成長するスタートアップは、チームとして機能している
様々なスタートアップを見てきた山田さんから見て、どのようなスタートアップが成長すると考えていますか。
どういうスタートアップが成長するのかに関しては、ぶっちゃけ分からないですね。 ただ、そうは言ってもスタートアップが成長していくために「チームとして機能していること」は重要だと思います。チームなので、経営者は一人ではなく、共同経営者は複数いた方が望ましいです。というのも、経営者は精神的に背負っている負担が大きいので、辛い時に一人で抱え込まない環境があり、近くに相談できる人がいるかが、小さいことのようにも思えますが本当に大事だと思います。
また、漫画で例えるなら、共同創業者同士がワンピースのルフィとゾロのような関係であることがベストですね。互いをリスペクトし合い、成長に必要な要素を補填しあえる、そんな関係です。だから、起業家は第一に共同創業者を惹きつける人間的な魅力が必要です。事業をスケールさせるために社員を採用したり、利害関係者を巻き込むための人間力も備えていると最高です。
様々なスキームでの投資経験をベースにした支援
山田さんがスタートアップを支援する際の強みはどこにあると考えていますか。
後発でスタートアップ投資を始めたので、これまで、他の投資家との協調投資をはじめとして、様々なスキームでの投資を経験しました。シードからアーリーステージのスタートアップ投資から、朝日新聞本体のM&Aにも関わりました。様々なステージの事例を経験したので、スタートアップの資金調達の際に考慮すべき事については、アドバイスできると思います。
投資家とスタートアップの間には情報の非対称性があります。当たり前ですが、数えきれない程の起業家と出会うVCにとって、スタートアップ投資は数十案件中の1案件です。でも、スタートアップにとってはその大事な1案件しか知りません。こういった事情もあり、情報を多く持っている投資家と情報が少ないスタートアップという構図になります。その結果、スタートアップの中には自分の知ってるシナリオ以外に選択肢が持てなくなることがあります。
そういったスタートアップとお会いする際には、状況をお聞きした後で「こういう投資家探しの戦略もありますよ」と別の選択肢も伝えています。例えば、投資家を探す際に、「こういうシナリオなら、アライアンスに強い投資家を仲間に入れた方が良いですよ」とか「そのタイプの投資家に入ってもらいたいなら、こういう事業戦略が良いですよ」と言った具合に、状況に合わせて適切なアドバイスができます。特に、スタートアップは複数の投資家から出資を受けたいと考えているので、投資家を含めた資本政策は重要です。
大企業の中でスタートアップ投資に奮闘する方々へ価値提供をしていきたい
最後に山田さんの今後の目標を聞かせてください。
投資家としては、スタートアップの起業家が必要としている時に、支援ができる投資家でありたいです。何十社ものスタートアップへ投資をしているので、サポートに強弱は生まれてしまいます。でも、起業家との距離感を保ちつつ親身になって寄り添えればと思っています。
他にも、大企業でスタートアップ投資をしている方々へもサポートができたらと思います。自分自身、オープンイノベーションに取り組む大企業特有の悩みやジレンマを抱えてやってきました。自分の経験をお伝えすることで、大企業の中でスタートアップ投資に奮闘する方々のお役に立てるのであれば、価値をご提供できるんじゃないかと思っています。そういった意味でも、大企業の方を相手に自分の経験やノウハウをお伝えする機会も増やしていきたいですね。