「根無し草」だからたどり着いたベンチャー投資。ジレンマを理解し、超えていく。

2019.04.25

自身を「根無し草」と形容する朝日メディアラボベンチャーズ・投資担当ディレクターの山田正美(やまだ まさみ)さん。中央大学の電気電子工学科を卒業後、2001年に朝日新聞社へ理系採用の新卒エンジニアとして入社する。同社では、新聞の印刷工場での新聞印刷に7年間携わったのち、希望していたインターネット関連の事業部へ異動。現在は、投資担当ディレクターとして、スタートアップ投資・育成を主戦場に活躍されている。そんな山田さんのスタートアップや投資にかける想いについて伺った。

広報・PRの分野でスタートアップの状況に合わせた支援は好評。

まず、山田さんの現在のお仕事内容について教えてください。

現在は、アーリーステージを中心としたスタートアップへの投資と、投資後の成長支援をしています。投資業務の中でも、スタートアップのソーシングから成長支援まで、全ての工程にダイレクトに携わっています。他に、シードステージのスタートアップを対象にした支援プログラム「朝日メディアアクセラレータープログラム」の運営もしています。

支援プログラムに関しては、初めて本格的にVCなどから資金調達を目指すスタートアップを対象にしています。理由としては、このフェーズのスタートアップが、弊社と自分自身の強みを活かせるのでバリューを出しやすいからです。特に、資金調達へ向けた事業の仮説検証や、納得感のあるプレゼンのロジック構築などについてのナレッジは数多くあります。支援プログラムでサポートして、資金調達に成功したスタートアップもたくさん見てきました。

その他に、メディアの会社としての強みを活かす形で、スタートアップの広報・PRの支援も力をいれています。スタートアップのサービスがどんなに素晴らしいものであっても、世の中に知ってもらわないことには、宝の持ち腐れになってしまいます。でも、宣伝やマーケティングに割ける資金が潤沢にあるスタートアップなんて少ないというジレンマもあります。だから、広報・PRの分野でスタートアップの状況に合わせた支援ができると、スタートアップに喜んでもらえる事も多いです。

最初の配属は新聞印刷工場。その後エンジニアの仕事へ。

現在はスタートアップ投資家として活躍する山田さんですが、朝日新聞社へは理系のエンジニア枠で入社されたんですよね。

理系の採用枠で入社をしたのですが、最初の配属は新聞印刷工場でした。輪転機というオフセット印刷の機械で新聞を印刷する仕事をしていました。新聞の制作は夜中に行われるため、月の半分は夜勤で不規則だったこともあり、慣れるまでは辛かったですね。

結局、7年間工場で勤務をしていたのですが、活躍する同世代と自分を比べて、もどかしさを感じたりしていました。その後、希望していたインターネット事業部門にたまたま空きが出て、そちらへ異動になりました。ずっとやりたいと思っていた仕事だったので、嬉しかったですね。その部署では、インフラやサーバーサイドのシステムとウェブサービスに関わる仕事を7年くらい経験させてもらいました。

朝日メディアラボベンチャーズを設立し、本格的にスタートアップ支援の道へ。

エンジニアとして活躍されたあとは、どういった経緯でスタートアップ支援をすることになったのですか。

インターネットの事業部で働いていた時は、自分のことを「なんちゃってエンジニア」だと思っていました。当時は、本格的にコード書いてサービス開発をするっていう業務が社内になくて、ある程度の業務をこなせても、本職のエンジニアには敵わなかったんです。 そういう葛藤もありながら、2013年に朝日新聞が新規事業開発部門「メディアラボ」を創設しました。相変わらずインターネットが好きで、新しいテクノロジーとかサービスに関心が高かったのもあって、メディアラボに異動することになりました。そこでは、与えられたミッションが最初からあったわけではなかったんですが、社外の人と関わりを持ったりする中で、スタートアップに興味を持つようになって、オープンイノベーションやベンチャー投資に関わる仕事をするようになりました。今になって考えると、自分自身が「なんちゃってエンジニア」のままではなく、本職のエンジニアを目指していたら、今みたいな刺激的な仕事はできていなかったなと感じています。

メディアラボがスタートアップに投資を始めたのが2014年で、最初は業務提携などのシナジーを重視した、シリーズA、Bのスタートアップへの投資が中心でした。ただ、よく言われるとおり、事業会社とスタートアップのシナジーは色んな理由で難しいということもあり、シナジーとは関係なく、外部のスタートアップに関わっていくやり方を模索して、2015年からアクセラレータープログラムを始めました。主に、シード期のスタートアップを支援をするようになったのはこの頃からです。僕自身は、アクセラレータープログラムの設計から立ち上げ、運営、スタートアップ支援、投資実行までを、数人の同僚と一緒に行ってきました。

こういった流れの中で、様々な理由から朝日新聞本体ではなく、CVCを別会社として設立したほうがいいのではないかという議論をして、2017年に「朝日メディアラボベンチャーズ」を設立しました。同時に、メンバー全員がCVCに移ったので、アクセラレータープログラムの運営も引き継ぎました。CVCでは、朝日新聞だけでなく、テレビ朝日をはじめ、系列のテレビ局などのメディア企業からご出資いただいて、メディア企業が出資するファンドという形をとりました。グループの関連企業や関係の深い企業からとはいえ、他の企業からの資金をお預かりしてるので、CVCというだけでなく、よりVCに近い運営方針になりました。その結果、自分自身もよりVCに近い立ち位置でスタートアップを支援するようになりました。