起業が日本を救う。魅力的な起業家の条件。

2019.04.25

学生時代にインディーズミュージシャン向けのサービスで起業を経験。新卒入社したBEENOS株式会社での投資部門立ち上げを機に、投資家としてのキャリアをスタート。現在は、BEENEXTのManaging Partnerとして国内外のBtoB SaaSのスタートアップへ投資を行なっている。 

3回に分けてお届けする第1弾の今回は、前田さんの歩んできたキャリアと魅力的な起業家の条件について語って頂いた。

最初の起業は大学2年生だった2006年。その後、会社を畳んだことで、力のなさを痛感。

現在は、投資家として活躍する前田さんですが、学生時代は起業家としてビジネスに没頭していたと伺いました。起業家時代のエピソードについて教えてください。

起業をしたのは、僕が大学2年生だった2006年ですね。当時は、youtubeがGoogleに買収されたり、Facebookが伸び始めてきた時期で、ネットでソーシャルを活用した新しいプロダクトへの関心が高まっていました。そのような時代の中で、僕自身も、人と人の繋がりを作るための何かを作りたいと思うようになって、友達を集めて起業することにしたんです。特に、この頃のFacebookはまだ学生しか使えなかったので、「絶対にもっと広い世代の人が使うべきでしょ」と思っていた節もありましたね。

起業をしてからは、インディーズのミュージシャン向けのSNSをコンセプトにしたサイトを立ち上げました。僕が音楽好きという理由もあるのですが、流行に敏感でコミュニティとしても結束力のあるグループを対象にすることが、サイトの普及への近道だと思い、インディーズのミュージシャンにフォーカスをした経緯があります。サイト上では、彼らにファンとの交流の場所を提供したり、自分たちの音楽を配信できるプラットフォームを作りました。

ただ、サービスは僕の思い描いていたようには成長しませんでした。というのも、ローンチしてからミュージシャンは集まったけど、ファンが付いてこなかったんです。つまり、ミュージシャン側は新たなファンに出会うためにサイトを訪問する一方で、彼らのファンになりうる新規ユーザーの数が少なかったんです。だからミュージシャンだけがどんどん集まるような構造になり、需要と供給のバランスが全く取れなくなっていきました。その結果、立ち上げた会社を2年で畳むことになりました。事業をグロースできずに、会社を畳んだことで、僕の事業を手伝ってくれた友人にも迷惑をかける形になり、自分の力のなさを痛感しましたね。

失敗からの再起。就職した先で新規事業への挑戦。投資部門を立ち上げる。

起業を経験された後に、新卒でBEENOS株式会社に入社して投資をするようになったのですか。

一度起業で失敗してしまったので、ビジネスを学ぶために、一般の会社へ入社する道を選びました。BEENOS株式会社には、ボストンの就活イベントで出会いました。当時は会社も小さく、新規事業を積極的に立ち上げる社風ということを知って、「色んなことに挑戦できそうだ」と思い入社を決めました。

BEENOS株式会社に入社をしてからは、自ら投資部門を立ち上げたことがきっかけで投資家としてのキャリアがスタートします。投資家として、様々な企業へ投資をすることでリアルな経験を積むことができ、次に起業をする時の精度を高められると思ったのが、投資家としてのキャリアを選んだきっかけです。また、たくさんの起業家や事業を第三者の視点から見ることができるので、成功要因や失敗要因を分析できます。様々な事例をインプットできるので、今後に活用できる要素がたくさんある点も魅力的でしたね。

そういった経緯もあって、起業家から投資家へと転身を決めたのですが、投資を始めてからは本当に楽しかったですね。投資家としてのキャリアをスタートした時は、リーマンショック後のVC全体が停滞していた時期だったこともあり、競合も限られていたので、たくさんの魅力的な起業家に出会うことができました。僕はまだ投資家になったばかりだったので、外部の事情は知らないまま、アグレッシブに活動できたことがプラスに働きましたね。

結局、同社には5年ほど在籍し、毎年コンスタントに投資を続けました。2012年には年間で32社投資するなど、非常にアクティブにキャリアを積むことができましたね。

投資事業で独立。自分本位で投資美学の追求をはじめる。

BEENOS株式会社退職後に独立をされたと伺いましたが、独立してからはどのような働き方をされているのでしょうか。

まず、独立をした理由は、投資における自分のこだわりを追求していきたいと思ったからです。企業に属しながら投資をすると、最終的な判断は自分ではなく会社になります。投資家としてのキャリアを積むうちに最終的な意思決定が自分にないことに物足りなさを感じ、自分本位で投資の美学を追求したいという気持ちが徐々に強まっていきました。これまでの投資経験を通じて得た失敗や成功体験を基に、自分が思い描くような形で投資をしたいと考えていた自分の気持ちに正直に従う形で独立を決断をしました。

独立してからは、会社に所属していたとき以上に仕事が楽しいですね。ファンドがシンガポールにあるので、現地スタッフのマネージメントのために、月の半分はシンガポールにいるような生活をしています。ただ、シンガポールの投資件数は日本ほどないので、ミーティングが少なく、時間に縛られることもあまりありません。そのため、投資家としての仕事を自分本位でできるようになったことに加えて、自分の好きなように時間を使えるようになり、最高の環境で働いています。

もちろん、人様からお金を借りてファンドを運営しているので、リターンのことを念頭に置き、シビアに数値目標を管理しないといけないこともあります。また、日本に帰国した際には、投資を検討している先との面談や、投資先の支援、取材などの予定を詰めるようにしています。そのため、シンガポールで仕事をする時は時間に縛られることが少ない一方で、日本にいる時はタイトなスケジュールの中で活発に動くことを意識しているので、どの場所にいても仕事は充実しています。

起業家を勇気づけて、前を向かせるような僕の支援スタイル「ハートオン」。

投資家としての前田さんのお仕事について伺いたいのですが、投資先の企業へはどのような支援を行なっているのでしょうか。

投資先とは月に1回なんらかのコミュニケーションは必ず取り、適切な支援ができるようにしています。支援に関しては、起業家のお悩み相談や壁打ちの相手など、対起業家での支援を中心にバリューを出すようにしています。その他に、一緒にSaaS的な戦略を考えて、考えた戦略を正しく遂行できているかを投資先と一緒に確認することも欠かしません。

また、これはよく言われることですが、起業家は孤独です。起業家に対して意見を言う人が少ないから自然と孤独になってしまいます。孤独を感じないためにも、社員が自分の意思表示をすることの重要性は訴え続けていますし、僕自身も自分の想いは起業家にぶつけるようにしています。だから、起業家が事業の成否を左右するような決断を前に悩んでいるときに、「大丈夫!絶対いける!」って勇気づけたりもします。時には、起業家よりも僕の方が事業に対して自信を持っていることも少なくありません。

このように起業家を勇気づけて、前を向かせるような僕の支援スタイルは、ハンズオンでもハンズオフでもなく、「ハートオン」と呼んでいます。

投資判断に「事業にマニアなのか」と「巻き込み力があるか」が重要。

10年間投資家として様々な企業に出会ってきたと思うのですが、投資を判断する際に重要視するポイントについて教えてください。

僕の場合、どのフェーズの企業にも投資をしています。まだプロダクトがないスタートアップに最初の投資をすることもありますし、すでに売上が5,000万円から6,000万円あがっている企業へ投資をすることもあります。ただ、投資をする領域はSaaS企業に限定をしています。SaaSに惚れてからそれ以外に投資できなくなったからです。

投資判断に関しては、プロダクトを持っていない黎明期のスタートアップへ投資をする時は、「起業家」を見て判断します。起業家が「どのくらい自分の事業にマニアなのか」と「巻き込み力があるか」の2点は特に重要です。

1点目の「どのくらい自分の事業にマニアなのか」は、製造業のSaaSを作ろうとしているのであれば、誰よりも製造業界について学んで、マニアになれるかどうかがポイントになります。「製造業について知り尽くしているし、今まで死ぬほどヒアリングしてきました!」って方だとかなり印象はいいですね。起業すると、辛いことも多いので、自分の事業が好きで趣味みたいな感じにならないと続きません。だから、マニアなくらい熱中できる方がベストです。また、SaaSは起業してから売上が月1,000万円を超えるまでに24ヶ月かかるので、我慢の時期が続きます。マニアでないとこの我慢の時期を乗り越えることはできないので、マニアであることは重要です。

2点目の「巻き込み力があるか」はそのままの意味です。SaaSは売上が上がれば上がるほど社員の力が必要になります。売上が伸びればCS(カスタマーサクセス)が必要ですし、プロダクト改善のために必要なエンジニアの人数も増えていきます。そのため、少数精鋭ではSaaS企業は経営できません。実際、売上100億円の会社なら社員は大体300名程度いますし、10億でも100名はいます。

このように、SaaSでサービスをグロースしていくなら、大規模な採用ができないと事業が成り立ちません。だから、そのレベルの採用ができるくらいの「巻き込み力」があるかどうかは重要な判断基準になります。

「この人に100人くらいついていきそうか」イメージしながらお話を伺い、僕が「自分がこの起業家の下で働きたいかどうか」と言う観点で判断をします。もし僕がこの起業家の下で働きたいと思えば、僕と同じような気持ちの人は100人くらいはいると考えているので、「巻き込み力」に関しては問題ないといった判断を下します。

起業家がいないとこの国は救えない。

最後に起業家へメッセージをお願いします。

正直に言うと、起業家がいないとこの国は救えないと思います。今の日本で起こっている人口減少は世間が思うほど悪くないことだと考えていますが、人口が減少すると世界に対する競争力が低下します。だから、その競争力を低下させずに高く保つ必要が出てくるのですが、そのためには起業家を増やすことが重要です。

起業家のみなさんに僕が伝えたいメッセージとしては、「日本の経済や社会を良くする会社を作って欲しい」と言うことです。そのような会社に心から投資したいと思っています。だから、興味ある人やチャレンジをしたい人は日本の未来のために、失敗を恐れずに挑戦して欲しいですね。