ZOZO投資決断の舞台裏。 私の琴線に触れた、前澤社長からのたった一言。

2019.12.18

伊藤忠テクノロジーベンチャーズの代表取締役社長や一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会会長などを歴任してきた安逹 俊久さん。その経験の中で、株式会社スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)やメルカリ、電動車椅子のWHILLなどへ投資を行ってきた。多様な知見から見いだせた成功する企業や起業家の共通項などについて聞いた。

自分の投資基準を模索する日々

15年以上ベンチャーキャピタルとして投資をする中で、大変だったことを教えてください。

1990年代後半はインターネットが普及して、ITブームが起こりはじめました。ブラウザーやWindows95が開発され、一人一台のPCを持つことが当たり前になったのです。
しかし、2000年後半頃から2002年にかけて、次第にITバブルが崩壊していきました。

伊藤忠テクノロジーベンチャーズは、ITブームの時に企画をして、崩壊しはじめた2000年に設立しました。正直なところ、設立後から2003年くらいまでは、スタートアップ企業の発掘にかなり苦労しましたね。この頃はITバブルの崩壊後で、良い企業がなかったのです。

また、当時は、投資の基準がなかったので、「このレベルならば投資する。このレベルでは投資しない」と自分で判断しなくてはなりませんでした。誰かがルールを決めてくれれば楽ですが、それがなかったので難しかったです。自分の基準が正しいのかもわからないので、暗中模索の日々でした。

商社である伊藤忠は、アメリカの企業に投資をする際に、その商品が日本の市場で売れるかどうかが判断基準となりました。結果的に売れないこともあるのですが、「売れそう」と思えたら投資をするという方針が明確だったのです。ところが、日本のベンチャーのITサービスの場合は、それが普及するかどうかは誰にもわかりません。

例えば、「ZOZOTOWN」の株式会社スタートトゥデイに投資をした2004年頃は、インターネットで洋服を買うことが、ここまで普及するとは誰も想像していませんでした。洋服のサイズは変更できるにしても、色や触った感覚などはスクリーンの画像と実際に目の当たりにしたのとでは異なることが多いですからね。最初は、「大丈夫かなぁ」と半信半疑で進めていました。

−インターネットでの洋服の販売サービスが普及するかどうかわからない中で、なぜスタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)に投資をしようと決めたのでしょうか。

前澤さんは、もともとミュージシャンで、何かとんがったものを持つ独特な雰囲気を感じました。彼は、「洋服をたくさん売ります」ではなくて、「既存の仕組みを変えます」と言っていました。そういうメッセージが私の琴線に触れたんです。もし、「たくさん売ります」と言っていたら投資しなかったでしょうね。既存の規制でも仕組みでも何でもいいのですが、「何かを変えたい」と思っている人には惹かれます。

目指すは、時代の「ちょっと先」いくサービス

−スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)以外の会社にも投資されましたか。

ソフトウェアの会社にいくつか投資しましたが、大きな成功といえるほどのものはありません。私が言う成功の基準は、一つは上場することです。もう一つは、売上100億円は難しいので、売上10億円を突破することくらいを指しています。このレベルの成功はほとんどありませんでしたね。

なぜ、多くの日本のソフトウェア企業は売上10億円を超えられないのでしょうか。

とてもおもしろいソフトウェアを作っている企業でも、世の中の流れに合っていないと爆発的には売れないんですよね。

一番多い失敗は、サービスのリリースが世の中の流れよりも早すぎるということです。先見の明がある起業家は、「これだったら売れるだろう」というアメリカのサービスを日本で提供しようとします。人とは違うことをしたいと思って起業するような人は、アメリカのサービスに自分なりの工夫を加えます。

もちろん日本のお客様に合わせるための工夫はいいのですが、いきすぎた工夫をしてしまうと、時代がついていけないという状態になってしまうのです。おもしろいけれどマーケットがついてこない事態に陥ります。ずっと先のサービスではなくて、「ちょっと先」くらいがフィットするのだと思います。

また、当時は、日本の大企業は、日本のベンチャー企業のサービスより、アメリカのサービスを選ぶ傾向がありました。不思議な話ですが、サービスの中身には差がなかったとしても、アメリカ企業を選ぶのです。ある種のブランドとなっていたのでしょうね。セキュリティソフトもアメリカの企業が選ばれていましたね。

最近は、日本でもPKSHA Technology、ABEJA、LeapMindといった立派なAIの会社が出てきていますよね。当時よりはずっとよくなったとはいえ、それでもまだ、日本のベンチャー企業を業務委託先と認識している日本の大企業は多いと思います。

後編に続く