短期間で事業をスケールさせる秘訣。起業家は「成功のコンセプト」を実行できるか?

2019.09.30

楽天キャピタルの中の楽天ベンチャーズで、ベンチャー投資を行う都 虎吉さん。事業開発部門でM&Aを担当、その後楽天市場のマーケティング部のマネージャー経験などを経て、ひとりで楽天ベンチャーズの日本拠点を立ち上げた。現在の投資の際に重要視していることや、これまで成功に導いた企業についてお話を伺った。

ゼロの状態からひとりで立ち上げる

現在のお仕事を教えてください。

楽天キャピタルという楽天グループのコーポレートベンチャーキャピタルで、ベンチャー投資を担当しています。楽天はファンド形式をとっていないので、楽天キャピタルが行う投資はすべて楽天のバランスシートから(自己資本で)行っています。

社内組織上はインキュベーション&インベストメントカンパニーという部門に所属しており、その中の投資分野の1つが楽天ベンチャーズです。一般的な企業組織でいうと、私は楽天キャピタル部の楽天ベンチャーズ課に所属しているようなイメージでしょうか。

当初東南アジアを中心とした投資からスタートした経緯から、楽天ベンチャーズの本拠地は、シンガポールにあります。どの案件を担当しているかによりけりですが、海外の投資案件が多いことから、私も年に4回、2週間ほどシンガポールに出張をしています。

楽天ベンチャーズの日本拠点立ち上げが決まったのは2016年。ひとりで立ち上げを任され、実際に投資活動をスタートしたのが2017年1月です。メンバーは、日本拠点にいるパートナーの私とアソシエイトの2名を含め、5名。三木谷浩史(代表取締役会長兼社長)もこだわっていますが、ベンチャーキャピタルで特に重要なのは意思決定の速さです。少人数だからこそ、効率的な意思決定とバックオフィスチームのサポートのもと、柔軟に動けています。

どのようにひとりで事業を立ち上げたのでしょうか。

会社から声をかけてもらいました。

私は、楽天に新卒で入社後、5年ほど事業開発部門でM&Aを担当し、その後楽天市場のマーケティング部のマネージャーを経験しました。M&Aを担当していた時は、マイノリティ投資も一緒にやっていて、写真共有サイトであるPinterestなどいくつかの企業への投資業務にも携わりました。そのような経験があったので、推薦を受けたのではないかと思っています。

私自身、既存の企業とのM&A経験をもとに、今後は、企業を支援しながら成長を見届ける仕事がしたいという気持ちがありました。そうした意味で、ベンチャー投資はまさにやってみたかった領域なので、声をかけてもらった時は嬉しかったですね。

立ち上げ後は、社内向けには業務内容の整理、採算性・将来性の検討、ベンチマークの調査、各事業部との連携などを通じて出資プロセスを踏んでいきました。

社外向けには、投資家や起業家へのブランディングを重視しました。実は、これが一番大変でした。もともと楽天ベンチャーズというブランド名で日本でのベンチャー投資を行っていなかったので、日本では認知度が低かったのです。ですから、1年ほど時間をかけ、投資家さんを人づてで紹介してもらい、お一人おひとりにご挨拶に行きました。

楽天エコシステムと5つの成功のコンセプト

投資先を選定する際の基準があれば教えてください。

投資は、直感というよりは、「楽天エコシステム(経済圏)」を将来的に強化できる可能性があるかどうかという視点で判断しています。

楽天では、会員の皆さまを軸に、EC、トラベル、フィンテック、保険など、さまざまなサービスを有機的に結びつけることで、他にはない独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を形成しています。これにより、会員の皆さまのライフスタイルに合わせた適切なサービスを提供していくことができると考えているのです。この「楽天エコシステム(経済圏)」の強化になりうる、ロングタームで連携ができそうな事業に対して投資をしています。

また、ポテンシャルのある起業家を支援させていただくことに注力しています。もちろん、数字やKPIもチェックしますが、自身が作っているものに愛着、執着を持っていて、実行力が発揮できるポテンシャルの高さを重要視しています。

楽天では、5つの「成功のコンセプト」があります。この5つをまとめて一言でいうと、「実行」だと考えています。。楽天は創業から20年以上経ちますが、「成功のコンセプト」通りに事業を続けてきた結果、短期間で事業をここまで拡大することができました。この5つの「成功のコンセプト」を実行できる起業家かどうかを確認するようにしています。

◆成功のコンセプト

(1)常に改善、常に前進
人間には2つのタイプしかいない
。 【GET THINGS DONE】様々な手段をこらして何が何でも物事を達成する人間。
【BEST EFFORT BASIS】現状に満足し、ここまでやったからと自分自身に言い訳する人間。
一人一人が物事を達成する強い意思をもつことが重要。

(2)Professionalismの徹底
楽天はプロ意識を持ったビジネス集団である。
勝つために人の100倍考え、自己管理の下に成長していこうとする姿勢が必要。

(3)仮説→実行→検証→仕組化
仕事を進める上では具体的なアクション・プランを立てることが大切。

(4)顧客満足の最大化
楽天はあくまでも「サービス会社」である。
傲慢にならず、常に誇りを持って「顧客満足を高める」ことを念頭に置く。

(5)スピード!!スピード!!スピード!!
重要なのは他社が1年かかることを1ヶ月でやり遂げるスピード。
勝負はこの2~3年で分かれる。

このように、企業のビジネス部分は、「楽天エコシステム(経済圏)」で、起業家のヒューマン部分は5つの「成功のコンセプト」で判断しています。(後編に続く)