起業の楽しさもつらさも分かるから、僕は起業家を支援する(後編)

2019.07.17

初めて起業を経験したのは、大学1年生の時だったと語る進藤圭さん。7年かけて大学を卒業した後、新卒でディップ株式会社へ入社する。同社での自分を「特殊部隊の人」と表現するほど、営業、企画、編集、新規事業など、様々な領域で自ら事例を作り出し、事業成長に貢献してきた。そして現在は、スタートアップへの投資業務、その後の成長支援に注力している。前回の記事に続き、端から見れば順風満帆にも思える進藤さんのキャリアに隠された過去の失敗体験から成功体験まで、今スタートアップ界隈から注目を浴びる投資家の素顔に迫っていく。

スタートアップの実情を踏まえたリアルな提案

ディップ株式会社で多岐に渡る経験を積まれてきた進藤さんですが、今現在はどのような仕事をされているのでしょうか。

最近は、投資家として月に1社のペースでスタートアップへ投資をしています。投資業務と平行して、投資先への支援もしています。僕の場合、投資先のスタートアップには、月に1~4度訪問して、事業のお悩み相談から具体的な提案まで、それぞれのスタートアップに合わせたサポートしています。

例えば、受託系のスタートアップはサービスは作れても営業を苦手としていることが多いです。そういったスタートアップから相談を受けた時は、営業組織作りに必要なKPI管理を投資先の営業部長と一緒に考えたりします。

一緒に考える際には、まずは僕自身の原体験をベースにして、組織作りに必要な枠組みを提供します。あとは投資先が自分たちの状況に合わせて設計し直せば、組織作りの一連のプロセスを効率化できます。実際に新卒入社後は営業マンとして目標の数字を追いかけたり、その後事業として営業組織作りやプロダクト開発、人事制度の設計なども経験しているので、スタートアップの実情も踏まえたリアルな提案ができます。

成長マーケットでの事業展開、自社の明確な強みを持てるか

日々たくさんの起業家とお会いする進藤さんから見て、成長するスタートアップにはどのような特徴があると思いますか。

成長マーケットで事業を展開していること、競合と差別化できる強みを持っていること、の2点は成長するスタートアップが持ち合わせている特徴だと考えています。成長マーケットで事業を展開していれば、スタートアップは成長していきます。極端ではありますが、何もせずに放置していてもスタートアップが伸びていく可能性があるので、市場の選択は重要です。

競合と差別化できる強みというのは、スタートアップが持っている独自性です。例えば、「独自のPR・集客装置を持っており、人材採用の局面でも効果的に活用できる」や、「社長がアメリカ現地で映像制作を学んだ叩き上げでスキルセットが高い」など、強みを明確に持っているスタートアップは成長しやすい傾向にあります。

足りないスキルセットを補填しあえる経営チーム

「起業家」自身にフォーカスも当てると、成長するスタートアップにはどのような特徴がありますか。

事業成長に必要な人材を自ら集められる起業家は魅力的です。特に、スタートアップのNo.2を担う人材に来てもらえるかどうかは重要です。「この人と働きたい」とか、「自分の人生を賭ける価値がある」と思ってもらうこと自体ハードルが高いですし、基本的には他社から引き抜く必要があります。そのような時に、起業家自身の人間性や事業に賭ける想いの強さがポイントになってきます。人を惹きつけ、仲間を集められる能力があるかどうかが、スタートアップの成長に直結します。

また、バランスの取れた経営チームであることも成長に大きく関わります。「熱量のある破天荒な社長」と「冷静で硬派なNo2」など、対極に位置する人物とチームを組むことでバランスが良くなります。これは極端な例ですが、一緒に会社をスケールさせていくので、対極的な人物同士でも、事業に対する価値観やビジョンは近いことが前提にあります。その一方で、スキルセットに関しては、お互いに足りない部分を適宜補いながら、得意な領域で勝負できるように、分かれていることが大切だと考えています。

自分の好きなことで人生を担保していきたい

最後に、学生時代に起業を経験して、ディップ株式会社では社内起業のような働き方をされてきた進藤さんですが、改めて起業家になることは考えていますか。

もう2度と起業家にはなりたくないような体験はしました。学生時代に借金を背負った経験や、銀行口座の残高が減っていく恐怖は本当にトラウマです。でも、そういった経験があるからこそ今の自分がいることは確かです。

起業の楽しさもわかるから、自分のやりたいことや好きなことで人生を担保していきたいという想いは変わっていません。こういった考え方は、生まれ持った性質なので、何を言われてもぶれることはないと思います。だから、「これがやりたい」という意思があれば、好き勝手に仕事をやれる今の環境は、僕にとってはとてもありがたく感じています。

そのような環境もあってか、投資家としての今の仕事もとても楽しめています。僕自身様々な事業を作ることが好きだったので、多数の新規事業を立ち上げてきました。この自分の原体験をスタートアップの成長のために還元していけたらと思います。また、様々なスタートアップへの投資を通じて、スタートアップ市場全体の拡大に寄与できれば、それはとても価値があります。だからこそ、もう一段階目線をあげて、スタートアップ市場全体に目を向けながら、今後も投資家としてのバリューを提供していけたらと思います。