未価値なものに価値を見出す、投資家という仕事に誇りを持って

2019.07.17

2013年、大阪大学在学中にメキシコで、ENVROY MENIKAを創業。約3年間Clean Technology関連プロダクトの輸出・販売事業と、日本企業のメキシコ進出支援事業を手掛ける。2016年1月に現場を離れ日本に帰国、同年4月サイバーエージェント・ベンチャーズ(現 サイバーエージェント・キャピタル)に入社。前回の記事に引き続き、現在は投資家として活躍する北尾 崇(きたお たかし)さんに、これまでのキャリアから投資家としてのマインドセットについて伺った。

コンサルティング事業にピボット後、事業譲渡を決意

ピボットを経験した後は、どのような事業を展開したのでしょうか。

今までの二酸化塩素を利用した除菌製品の販売とは打って変わり、日本企業のメキシコ進出のためのコンサルティング事業に切り替えました。学生時代にリヴァンプという企業再生系ファンドでお仕事をさせて頂いてたので、そこでコンサルのトンマナを少し学べていたこともあり、やれそうだなと。なにより、会社を存続させるためにも、手元にキャッシュを溜めながら足場を整える必要性を感じたためです。

また、メキシコでコンサルティング事業を行う傍ら、日本に戻って大学卒業までに必要な単位を取得する必要があったため、日本とメキシコで連携しながら仕事を進めていました。これらの活動に付随して、同時期にサイバーエージェントキャピタル(以下CAC)でのインターンも始めました。大学にも通いながら、日中から20時頃までCACで働いて、20時から夜が明けるまではメキシコ事業に取り組むという毎日を送っていましたね。

その後、卒業が確定してから、再度メキシコに渡り、事業譲渡を決意しました。メキシコで事業を手放した時は、やりきったと思う一方で、二酸化塩素の除菌製品を販売する医療事業については、最後までやりきりたかったという気持ちもありましたね。ただ、ピボット後に主力事業として取り組んでいたメキシコでのコンサルティング事業に関しては、支援実績の多い競合の日本のコンサルティング会社と比べると、支援をするためのリソースも不足していましたし、提供できるノウハウにも限界がありました。また、メキシコに進出を予定している日本企業とコネクションを作り、安定的に収益を上げることにもハードルがあり、これらの要因を総合的に考慮した結果、事業の譲渡を決めました。

キャピタリストとして奮闘する起業家を支える側へ

学生時代にメキシコでの起業を経験した後、どのような経緯でCACに入社したのでしょうか。また、CACでのお仕事内容についても教えてください。

帰国後は、ありがたいことに様々な企業からオファーを頂きました。最終的には、「メキシコでの起業経験から培ったスキルに加えて、さらに自分自身のスキルを磨いていきたい」という想いと、「事業を通じてマーケットを変えるために奮闘する起業家と仕事がしたい」と考えて、CACでのキャリアを選びました。

CACでは、投資家として、まだ世の中に名前の知られていないシード期のスタートアップを中心に投資をさせて頂いてます。スタートアップの成長に向け、起業家と並走しながら最前線でサポートができるので、とてもやりがいがあります。

自分が投資したスタートアップが成長して世間からの認知度も上がり、一般のユーザーにサービスが浸透していくという過程を近くで見届けられるのは、嬉しいですね。

スタートアップの成長のため自分のリソースの100%を傾ける

これまでに起業を経験され、現在は投資家として活躍されている北尾さんですが、自身の投資家としての強みはどこにあると考えていますか。

自分も起業を経験しているので、起業家にしか分からない孤独や辛さに共感できることだと思います。事業が伸び悩む期間、仲間が辞めていく瞬間、ピボット後のアイデアのない時期の虚無感、グロース時の喜び等、自分も全て味わいました。そういったリアルな経験が起業家への共感に繋がっていると思います。

また、アドバイスで留まらないように意識してます。起業家にアドバイスをしてくれる人は沢山いますが、仲間として求められていることは「成果」を出すこと。次回のファイナンスを成功させること、売上を作りに行くこと、アポを取りに行くこと、採用を成功させること等。そのために、事業計画の作成支援もすれば、投資先へのテレアポをしたり、営業に同伴することもあり、採用面談も行います。

そして、僕自身まだまだ若手の投資家で土日もフルに使えるので、投資先のスタートアップに自分のリソースを100%傾けることができます。スタートアップ起業家と長い時間を過ごし、近い距離感で誠心誠意サポートをすることで、「事業のこの部分を助けて欲しい」と起業家から直接言って頂けるくらいの関係を構築できるかが重要です。

このような関係性を築くことができれば、事業の壁打ちや、先の調達シリーズを見据えたファイナンス戦略のような、事業の成否に繋がる重要な相談を依頼されることも多くなります。起業家の立場を理解できて、自分のリソースの100%をスタートアップの成長のために傾けることができる僕だからこそ実現できる起業家との関係性も強みだと考えています。

印象に残る数多くのスタートアップ

北尾さんが投資をしたスタートアップの中でも、特に印象に残っているスタートアップとのエピソードはありますか。

沢山あります。株式会社POL(以下 POL)というスタートアップは、東大生が立ち上げたスタートアップ企業で、理系学生をターゲットにしたダイレクトリクルーティング・プラットフォーム「LabBase(ラボベース)」を運営しています。日々の研究で就職活動に時間を割くのが難しい理系学生と、専門知識を有する学生に絞って採用活動をしたい企業を繋ぐプラットフォームです。

当時、VCの業界界隈でもよく話題に上がる会社で、市場規模が大きい研究者マーケットに目をつけた市場選択の秀逸さと、投資家を惹きつける社長の人柄や事業への熱意も非常に魅力的だったんです。

ただ当時は若く、事業計画の作り方や、営業のやり方、営業組織の作り方等は経験が少ない部分も目立っていたので、「どうすれば、POLと並走しながら付加価値の高いサポートができるのか」を投資前のフェーズから考えており、結果的に、「北尾さんと一緒にやりたい」と言って頂けました。

その他にも、DogHuggyというペット版Airbnbを運営する会社では、公園に出て散歩中の飼い主の方にヒアリングをかけビラを配り回り初期のPMFの糸口を探したり、Coupeというインフルエンサー事務所とは、先日社長ががっつりブログを書いて下さいましたが笑、ファイナンスや戦略の支援をガッツリ入ってきました。

未価値なものに価値を見出す、意義な大きな仕事に誇りを持って

最後に、北尾さんの今後の目標について教えてください。

日本に限らず、アジアを中心にグローバルマーケットにおけるCACおよび自身のプレゼンスを高めていけたらと思います。世界8ヶ国10拠点を有するCACとしての強みを最大限に発揮できる環境を作るためにも、まずはシード〜アーリーステージに特化した、アジアトップクラスのVCを目指したいです。その目標の実現のために、僕自身はCACの日本メンバーとグローバルメンバーの橋渡し役を担いながら、CACの成長を先導できたらと考えています。

最後に、VCの仕事というのは、まだまだ認知されてなく、投資家という言葉に釣られた表面的な姿で捉えられていることが多いです。しかし、本質的には、まだ未価値なものだと世の中がみなしているものに、価値を見出す、そんな意義の大きな仕事だと感じています。そんな意義を感じながら、起業家に並走をしながら誇りを持って仕事を行なっていきたいと思います。