腹落ち度の高いストーリーをメンバーと共に描けるか?」 異色の経歴を持つベンチャー投資家が語る、魅力溢れるベンチャー企業に投資家が惹かれるワケ

2019.06.19

マネックスベンチャーズのインベストメントマネージャーとして第一線で活躍する永井優美(ながい ゆうみ)さん。キャリアの始まりは、大手人材会社の新卒メディアの営業と企業の人事担当者への採用コンサルティング業務でした。その後、自社の人事採用担当として中途採用業務に従事する。2部署で経験積んだ後に人材領域を離れ、アライアンスを軸にベンチャー企業への出資を行う、同社の「ベンチャー企業支援事業部」に異動を決断。以降は投資家として数多くのベンチャー企業の支援に注力した後、2018年の9月からマネックスベンチャーズで新たなキャリアをスタートさせる。人材営業、人事採用担当を経て、投資家へと華麗な転身を果たした永井さんの語る、これまでに自身の歩んできたキャリアと、投資家としてベンチャー企業投資にかける想いを伺った。

自分自身がフロントに立って動ける仕事を求めて

「人材から投資家の道へ」全く畑の違う分野に転身したきっかけについて教えてください。

新卒では、求人メディアの運営から人材紹介まで、人材領域で幅広く事業を展開する大手の人材会社に入社しました。新卒メディアの営業から新卒採用に課題を抱える人事の方への採用コンサルティングに2年間従事した後、エンジニアから営業職まで幅広い範囲の中途採用活動を行う人事採用部隊に異動しました。数年間で、人材領域の広範な経験を積むことができ、この時に築いた人脈や経験は今現在も生きていると感じています。

その後、ベンチャー企業への出資を行う同社の「ベンチャー企業支援事業部」に異動のチャンスをいただいたことがきっかけで、立ち上げ間もない部署に3人目のメンバーとしてジョインしました。この決断の裏には、私自身が自分のキャリアについて悩んでいたことや、「人事、採用の仕事にもやりがいを感じていたけど、もっと主体的に自分自身がフロントに立って動ける仕事に挑戦してみたい」という強い想いがありました。

未経験の仕事も、人材営業と人事採用担当で培った強みが武器に

全くの未経験からスタート、成長する過程でぶつかった壁はありましたか。

始めは、「売掛金って何?」というところからスタートしました。ファイナンスに関する知識は皆無だったと思います。ただ、人事として数多くの部署と横断的にコミュニケーションをとってきた経験から「社内でのネゴシエーション力」、「現場の人にどう動いてもらうか」という点においては、人材営業と人事採用担当時代に培った私の強みを活かせたと思います。資本提携業務の仕事は、1人だけで完結できるものではないので、周囲の人間に主体的に働きかける能力や、社内調整力は武器になります。

また、ベンチャー企業もかつてないほどのスピードで設立され、マネタイズの方法も多様化しています。このような状況下で「現状の財務諸表をどう読み解くかよりも、3年後の未来の事業計画の理解や、蓋然性についてどのように見極めるのか」を判断するための軸の形成に苦労しました。

制約から離れて、幅広い業界のベンチャー企業に携わりたい

その後、マネックスベンチャーズにはどういった経緯で入社されたのですか。

ベンチャー企業支援事業部では、未来志向で前向きな起業家の方とお仕事をする機会も多く、そういった方に出資やアライアンス提携という形で成長支援ができる環境は本当に刺激的でした。その一方で、純投資という目線で幅広い業界のベンチャー企業に携わりたいという思いも強くなっていきました。また、資本業務提携の場合、どうしてもベンチャー企業に対して支援できる範囲が限られてしまうという側面もあり、こういった制約から離れて仕事をしてみたいと考えるようになったのです。

そのタイミングでマネックスベンチャーズから「ファンドを立ち上げるので一緒にやりませんか?」というオファーをいただきました。ファンドをゼロから立ち上げるという実績がない中でスタートラインから一緒に作っていくということに挑戦できること、ベンチャーサイドに近い気持ちで仕事ができることに魅力を感じて、入社を決意しました。振り返ると、マネックス社の変革と自分が希望する仕事の方向性がマッチしたことが大きなきっかけになったと思います。

腹をくくれている経営者とチームに魅力を感じる

これまで数多くのベンチャー企業を見てきた永井さんの考える、魅力的なベンチャー企業について教えてください。

総合的に腹をくくれているベンチャー企業には魅力を感じます。腹をくくれているというのは、経営者はもちろん、経営者に近いメンバー全員がミッションの実現のため、同じベクトルを向いている状態を指します。もう少し具体的に言うと、経営者の描くストーリーが独りよがりのものではなく、メンバー全員が共感して腹落ちしている状態です。

例えば、経営者は「なぜプロダクトを開発しようと思ったのか」、「どうやってそのプロダクトを世に出すのか」、「そのプロダクトを広めた先にどんな未来を期待しているのか」という一連のストーリーを描いています。この一連のストーリーに対してメンバー全員が腹落ちしていて、さらには「自分は一連のストーリーの中でどのポジションを担っていて、どんなバリューを出せるのか」という視点を持っているチームには魅力を感じます。このようなチーム力が確立しているベンチャー企業は、オフィスを訪問した際に社員の方々から活気を感じますし、顧客や投資家など周囲の既存支援者からも高い信頼を得ていると思います。

仮にメンバーの1人がマーケットに将来性を感じていなければどこかのタイミングで事業にほころびが生じるかもしれないですし、事業にハードルが課せられた時に、超えることができない事態に陥る可能性も高くなると思います。そういった意味でも腹をくくれているベンチャー企業は魅力的ですし、「私自身も何か役に立ちたい」と言う気持ちになりますね。

ハンズイフ形式で投資先の状況に応じた柔軟な支援

魅力的な投資先に出会った時、投資家としてベンチャー企業をどのような形でサポートしていますか。

投資後のサポートに関しては、ハンズ・イフ形式で行なっています。ハンズ・イフというのは、サポートできるところは誠心誠意サポートして、すでに事業の軸とストーリーの確立している部分については企業サイドに信頼を置いて任せるというスタンスです。企業によって、サポートしてほしい内容については変わってくるので、それを考慮することで柔軟性の高いサポートを実現できます。

また、プロダクトをスケールさせる過程で必要なタスク以外にも、やりたいけど中々手の回らない痒い部分に対してのサポートも大切にしています。例えば、プロダクトやサービスの開発が終わって、それを広めていくフェーズでの営業サイドからの仮説検証や、採用や組織作りにおける課題解決などが一例として挙げられます。

上述のようなサポートに加えて、私自身の経験や人脈を活用して、アライアンスを組みたい大手企業に適切な人材を紹介して、その先でどのようにスケールできるかについて一緒に考えられる点も独自の強みだと考えています。

可能性を切り開くベンチャー企業が、より良い未来を作っていけるように

最後に今後の目標について聞かせてください。

人材業界でのキャリアと投資家としてのこれまでのキャリアを振り返ると、私は自分自身のポジションを能動的な二番手と位置付けています。そういう意味では、経営者に近い距離感でビジネスのフロントに立ちながら、一緒に事業を推進する役割を担うVCという仕事は自分には向いていると思います。仕事から得られる経験値や、ベンチャー企業の経営者や組織にダイレクトに関われる今の環境は、大変なことも多いですが、それ以上にやりがいを感じられる瞬間がたくさんあります。

私は、未来というのは勝手に作られていくものではなく、意思ある人が作り上げていくものだと考えています。プロダクトやサービスで新しい可能性を切り開くベンチャー企業が、より良い未来を作っていけるように、今後も投資家としてサポートし続けていきます。