スタートアップ投資と大企業の事業開発を両輪で回す醍醐味。

2020.03.03

2009年NTTドコモへ⼊社し、新規事業開発に関わった後に、2014年にドリームインキュベータへ出向した⽥中広記さん。現在は、Scrum Venturesへ参画し、日本国内のスタートアップ投資とパナソニックとのオープンイノベーション・プログラム「BeeEdge」を担当している。今後、田中さんはどのようなビジョンを描いているのか。話を聞いた。

大企業が新規事業創出に苦労する理由

Scrum Venturesに参画されたのはいつでしょうか

2018年です。その頃、Scrum Venturesでは、日本オフィスの人材を募集していたようで、GPの宮田とパートナーの春田とカジュアルに面会しまして、Scrum Venturesの日本拠点の立ち上げ期に参加できる点や、パナソニックとのオープンイノベーション・プログラムの「BeeEdge」のチャレンジに、元大企業の新規事業担当として非常に共感しまして、ほどなく入社を決めました。

田中さんはもともとドコモで新規事業を担当されていたのですよね

はい。ドコモに在籍していた間は、法人事業部やR&D部門で新規事業開発に関わっていまいた。

ドコモにいた期間は、正直もがきまくっていたので(笑)うまくいくケース/うまくいかないケースというのは身を持って体験しましたし、どういう状況でもなんとかしようとする姿勢というのを大事にして仕事をしていました。

ドコモ退職後は、自分たちで小さなコンサルティングファームを立ち上げて、自分でも生株を持って、経営を自分事で考える経験をしました。このときにキャッシュフローを常に見て、「ここを目指そう」とか「こうなったらやばい」とかを創業メンバー全員で実体験して、大企業の新規事業に一番足りないのは、こういったヒリヒリ感なのではないかと思うようになりました。

なぜ大企業で新規事業を起こすことは難しいのでしょうか。

様々な要因があると思いますが、結局は「本気になりきれていない」というところに尽きると思うんです。

例えば、チームに仲が悪い人がいる場合、大企業では「まぁまぁまぁ」とハレーションが起きないようにうまくおさめます。しかし、2〜3人の会社では適当におさめることはできず、「どうやったらうまくやっていくことができるのか」を真剣に考えなくてはなりません。

また、プロダクトの開発がうまく進んでいない場合、大企業では「開発担当の責任だよね」と役割分担を基に整理されることが多いと思います。もちろん、誰かが責任を持つというのも重要なんですが、例えば10人にも満たないような会社で同じようなことがあれば「どうしたら良いか」を一緒に考えますよね。開発がうまくいかなかったら会社自体が終わってしまいますから。問題を解決していかなければ逃げ場がないんです。

大企業に籍を残しつつ起業する「BeeEdge」

現在は、どんな仕事をなさっていますか

Scrum Venturesは、日米のスタートアップ投資と大企業向けのオープンイノベーション・プログラムのスタジオ事業の2つの事業を運営しています。投資だけでなく、自分たちでも事業を作ることを大事にしている会社なんです。「ただの投資家でいるのは面白くない」というコンセンサスがあります。

スタジオ事業には、パナソニックさんとの「BeeEdge」や電通さんとの「SPORTS TECH TOKYO」というプロジェクトが動いています。

僕はそのうちの「投資」と「BeeEdge」を担当しています。「投資」と「SPORTS TECH TOKYO」の両方を担当しているメンバーもいます。

BeeEdgeは、Scrum VenturesとパナソニックとINCJのジョイントベンチャーで、パナソニックの社員の新規事業の立ち上げを支援しています。もう少し説明をすると、新規事業のアイデアを持つパナソニックの社員が、パナソニックを休職して、起業、事業開発ができるという環境を整備していて、そこの支援をしているのです。パナソニックの社員でいる限り経営者の経験は積めないですが、BeeEdgeのスキームを使えば、休職して、自分で出資をし、新規事業の立ち上げ・事業拡大ができます。このBeeEdgeの仕組みだったら大企業の新規事業がうまくいくケースになりうると思いました。

現在BeeEdgeがスタートして2年ほど経ち、3社の会社を設立しています。第1号は、ミツバチプロダクツというチョコレートドリンクマシンを販売する会社です。パナソニックのトップ営業マンだった浦さんのチョコレートに対する熱い想いがあり、またこのマシンのデザインは、元アップルのダグラスさんという糸島在住の孤高のエンジニアの方が担当している等、非常に面白い会社です。

第2号は、GIFMOという嚥下食調理器を開発している会社です。普通食をスムーズに食べるのが困難な方に向けて、さまざまな料理をこの調理器に入れて10分ほど回すと、見た目を変化させずにやわらかい介護食に変えることができます。一般的に、普通食を飲み込めなくなった方が食べるペースト料理は、見た目も良くなく、美味しくないので、QOLを下げています。家族が食べているものと見た目は同じで、柔らかい料理を食べられるようになったらいいですよね。

どちらの事例も社員の方がパナソニックを休職し、自らも出資をした上で起業しているので、やはりこれまでの新規事業とは真剣度から違うと感じています。

「エンドユーザにとって意味のあるものは何か」を突き詰め

次に、投資について教えてください。

僕は、バカン、P・マインドといった会社を担当しています。

バカンは、AIによって、会議室・ホテル・トイレなどの空席情報をリアルタイムで提供する会社です。関わり方は、ハンズオンでオフィスに週2日いるレベルでいたこともあるくらい仲良くさせていもらっています。具体的には、事業計画を作ることから、バックオフィスの請求ツールの作成とオペレーションといったところまで手伝いました。バックオフィス担当者から「お客様のプロジェクトを優先したいので、エンジニアのリソースを使わずに運用対処でなんとかしたい」と相談されたとき、本当にいい会社だなと思いました。僕らは投資先の応援団なので、そういった手が回っていないところをサポートすることも大事にしています。

P・マインドは、身体の痛み治療器を開発している会社です。にわかには信じられないのですが、腰痛だったり、関節痛だったり、はたまた生理痛だったりが、この機器を充てるとすごく楽になるんです(笑)今は医療機器として国から認証を受けることを見据え、痛みの業界の権威の先生に臨床面でご協力いただいていいたり、医療機器の認証取得のプロである日本医療機器開発機構(JOMDD)がリード投資家で入ってバックアップをしていたりしています。ここも個人的にかなり密なコミュニケーションをとってサポートしています。

田中さんは、どういう起業家に投資をしようと思いますか

起業家の方が、その業界のマーケットをどう見ているのかを重要視しています。やってみないとうまくいくかどうかはわかりませんが、「これが人々に必要とされている」という仮説を僕らがどれだけ信じられるかが重要だと思います。誤解を恐れずに言えば、良いか悪いかというよりも共感できるかどうか。投資して終わりではなくて、投資した後に”めちゃくちゃ手伝う”ことを重視しているので、そういった面も大事にしています。

バカンの河野さんは、プライベートでの原体験があって今のプロダクトを見つけたといつもおっしゃっていますが、その背景には「空席情報がわからないのはおかしいよね。どうしてこんなに空いていないんだろう」という疑問があったのだと思います。そこから、「これとこれをこうやって組み合わせたら、空席情報サービスを提供できるのではないか? ハードもソフトもこうやって作れば低コストで導入しやすいのではないか?」という仮説を立てて開発を進めたのだと思います。単に潜在ニーズがあるというだけでなく、ユーザ側の導入しやすさまで考えられていたところが、投資の決め手の一つになったと思います。

日米で投資活動をしている強み

田中さんが、好きな領域や注目している領域はありますか

今はモビリティに注目しています。海外では非常に盛り上がっている領域ですが、日本で名が知れているスタートアップは10社に満たないですし、ことスタートアップ投資で見ると、これからの領域と思います。規制が強い業界には、どうしても保守的にならざるをえない面もあると思います。でも、その規制をどうやってクリアしていくか。そこにチャンスがあって、面白いと思います。

ソフトバンクとトヨタの合弁会社でモビリティサービスを提供するMONET Technologiesが作ったコンソーシアムには、400社ほどの企業が加盟しているそうです。昨年の6月末に開催された第1回会合で宮田がプレゼンテーションをさせていただいたのですが、約600名の方が参加されました。モビリティに対する注目度の高さがうかがえますよね。

Scrum Venturesとしては、基本的にはオールジャンルで投資をしていくと思います。

今後、具体的にどういった活動をしていく予定ですか

今は、アメリカの投資と同じファンドを使っているので、Scrum Venturesとしてはアメリカの投資がメインにはなります。

また、現在は、アメリカのスタートアップが日本進出をするのを手伝ったり、日本の大企業との協業をサポートしたりしています。

例えば、AmazonGOのようなレジなし店舗システムを提供するZippinにNTTドコモ・ベンチャーズと野村総合研究所と共同で投資しました。NBAチーム「サクラメント・キングス」の試合会場にZippinを導入したら、混雑が大幅に改善され、かなり売上が上がったそうです。

Scrum Venturesでは、アメリカの資金調達の情報を全てデイリーで追っていますし、実際にアメリカのポートフォリオの日本進出支援もしていることもあり、向こうの情報にはそれなりに感度を持っていると思っているのですが、こういった知見を日本の投資にも活かしていきたいですね。