負けない戦略、SaaSの極意。”◯◯LOVE”を突き詰めたクレイジー求む。(後編)
WEBマーケティングコンサルタントとしてキャリアをスタートした郡 裕一(こおり ゆういち)さん。その後はソーシャルゲームプラットフォームの領域に軸足を移し、プロダクトマネージャーを務めた後、自らの会社を起業。2012年からは、培ってきた経験を活かしたコンサルティング業務と受託開発に加え、スタートアップ企業への支援を開始。2017年、B2Bスタートアップの事業戦略、開発、営業マーケティングを支援するベンチャーファンドREALITY ACCELERATORを立ち上げ、現在はキャピタリストとして活躍している。前回に引き続き、起業家目線を備え、多様な経験を積んできた郡さんのこれまでのキャリアと投資家としてスタートアップ支援にかける想いについて伺った。
目次
知人の起業支援を機に、スタートアップ支援を始める
WEBマーケティング・開発コンサルタントを主戦場に活躍されてきた郡さんが、スタートアップ支援を始めたきっかけについて教えてください。
数年前、当時楽天に勤めていた知人から「2年後、3年後に起業しようと思ってる」という相談を受けたことがあり、その際に「やりたいなら、今やっちゃいなよ」という感じで背中を押しをしたところ、その方が本当に退職をして起業を決断したことがきっかけです。さすがに背中を押したまま放置することはできないと思い、起業後の支援をするようになりました。
また、偶然にも同じタイミングで、数社のスタートアップから起業や事業周りについて相談を受けていたこともあり、知り合いの会社の会議室を借りて、無料でスタートアップ支援をするようになりました。
100%事業を成功させる人を目指して
受託業務やコンサルティング業務の傍ら、スタートアップ支援にも注力していたのはどのような想いからですか。
もちろん、根底にはスタートアップを応援したいという想いがありますが、それ以上に「100%事業を成功させる人になりたい」という人生の目標を叶えるために、スタートアップの支援を始めました。
目標を叶えるためには、出会うスタートアップの母数を増やし、様々な手法でスタートアップを支援して、その過程で上手くいった施策を横展開する必要があると考えています。例えば、スタートアップ支援を始めた2011年当時は、TwitterやFacebookが急激に認知度を上げた時期で、その流れでオウンドメディアにFacebook経由で集客するトライアルを始めたことで成功を納めることができました。
その経験を基に、同じようにオウンドメディアを使ったメディアとしてのトラクション作りにノウハウを横展開するなど、「上手く行ったら横展開」というサイクルを継続していました。
結果として、スタートアップの事業を成功させるための手法の確立と横展開化を経験したことで、高い確率で少なくとも次の投資に繋げることが出来る、という自信を持てるようになりましたし、「100%事業を成功させる人になる」という目標に少しは近づくことができたのではないかと思います。
スタートアップ支援の最適化を求めた先で、ファンドを作る
その後、ベンチャーキャピタルを立ち上げましたね。どのような経緯があったのですか。
ベンチャーキャピタルを立ち上げる前は、自社のアクセラレータープログラム(Reality Program)でスタートアップを育成して、それから投資家に繋ぐ役割を担っていました。ただ、投資家に繋ぐと言っても、プレシード〜シードのスタートアップの場合、少なくとも1社あたり20-30社のVCを繋がないと投資してくれる先が決まらないことがほとんどです。それに加えて、当時支援していた会社が累計100社近くなり、約100社に対して、20-30社のVCを繋ぐとなると自分の許容できる業務の範疇を超えてしまっていることに気づきました。特に僕の場合、スタートアップについて深く知るために「3ヶ月一緒にやりましょう」というスタンスでスタートアップを支援していたため、なおさら一個人で対応できる業務には限界がきてしまいました。
そういった状況を考慮すると、僕自身がファンド投資家になることで、スタートアップが投資家巡りに使う時間を短縮でき、これまで取り組んでいた支援業務の最適化にも繋がると判断したため、自然な流れでファンドを作るという選択に辿り着きました。
◯◯LOVEが強すぎる、クレイジーな起業家に会いたい
これまで様々なスタートアップを見てきたと思いますが、成長するスタートアップに共通点はありますか。
「◯◯LOVE」が強すぎるスタートアップは成長すると思います。例えば「ファッションLOVE」とか「クルマLOVE」みたいに、自分の専門領域を愛していて、起業家自身が「世の中にある会社の中で自分の会社が一番好き」という状態です。そういう会社は自分達の会社をより良くするためのアドバイスには真剣に耳を傾け、未踏の領域にも積極的に挑戦する風土があるので、一緒に働いていて楽しいです。
今の世の中は事業立ち上げのノウハウも共有されていていて、起業家のサポーターも多いので、起業家の努力があれば70点から80点くらいの事業を作ることは難しくないと考えています。でも、そこから先の領域に到達するには、自分の仕事が好きで、時間を費やしているからこそ生まれる「こだわり」が必要になります。「その機能はサービスを良くするために本当に必要なの?」と周囲が疑問に思うような、当人以外では中々理解できない「細部へのこだわり」が、サービスやプロダクトの競合優位性を生み出す可能性を秘めているからです。だから、投資家には理解できない「◯◯LOVE」を突き詰めた世界観を持っているクレイジーな起業家に今後も出会いたいです。